カルテ10

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「星!」 「あっちの夢の国が静かになればもっと見えます」 「わー」 都内でこんなに星が見える場所があったんだ。 「へー」 木が多い所為もあるんだろう、こころなしか涼しい。 「有馬さん」 「ほら、“有馬さん”」 「ああ、気になります?」 「別に」 星の光は恒久のような気がするけど いつ、無くなっても不思議じゃないんだな、と。 明日、消えるものもあるかもしれないし その場所でなくなっても、地球では 100年先か1000年先か、分からない。 「有馬先生」 「ぶっ」 思わず吹き出した。 「キモ」 「……みんなそう呼んでたでしょ。 もしくは、呼び捨て、もしくは、モエ」 モエ、と言われたところで ちょっと走り出した心臓。 少し後ろを歩く私は 相変わらず陣内に着いていく。 従順で賢い雌(オンナ)だ、と自分でも思う。 「だから、違う呼び方がしたかったんです。 誰も呼んでない、呼び方」 立ち止まった陣内が振り向いて こっちに手を伸ばす。 ほら、ほら、また着いていく。 “おいで、手を繋いであげるから” “ば、バカにすんじゃないわよ” 「有馬さんの手、意外にちっちゃい」 暗闇の中に浮かぶ陣内の艶めきオーラが眩しい。 陣内といるとよく軌道を逸れる心臓は 最早どこに向かって突っ走っているのかは不明。 「久しぶりに会って まあ、気付かないと思ってたけど 見事に気付かない有馬さんにムカついたから ずっとそう呼んでたんだ」 陣内の体温はいつでも私より高くて 熱いぐらい。 私は末端冷え性だ。 夏でも、汗はしっかりかく癖に 手足は冷たい。 だからかな、余計にアツく感じるのは。 だけど途端に浮かんできた映像が 頭の中を乱反射して飛びまくり、思わず振り払った手。 「手に汗かくから、ヤダ」 手、なんて素面の時に こんなにドキドキしながら繋いだ事は無かった。 なのに 加倉井さんとのシーンを思い出して それをヤメてしまうなんて ……アホらし。
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