カルテ10

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「有馬さん 何があっても、離しませんよ?」 「は?」 「前にも言いましたよね? あなたの事はあなたよりオレの方が何でも知ってる。 今まで抱えてきたことも 何を想い、何を考え、どうするかも。 そして 何を隠しているかも、全部です」 煌めくような灯りが 空に反射しているかのようだったそれが ふっ、と消えてなくなっていく。 「夢の国の時間もおしまいですよ、有馬さん」 ジワリ、ジワリと確実に拡がっていく闇と銀の魂の数々に、目を奪われた。 行き着いた先に紅い光を纏う魂 知ってる。 蠍座、アンタレスだ。 サソリは渇いた砂漠で生きのびる為に 数少ない獲物を確実に仕留める為に 毒の針を積極的に振るい 時の流れと共に強化された毒を仕込む。 紅い魂が陣内を照らす。 ちょうど真後ろに控えたそれが 大きくわたしに振りかぶったサソリの尾の先のようだった。 「有馬さん、返事は待ちません」 「陣内……」 きっとこの男も たくさんの“非”を潜ってきたに違いない。 じゃなきゃ、こんなに確かな訳がない。 医者としてしての腕も 雄(オトコ)としての素質も 曲がらない 芯の通ったこの精神(ココロ)も 「あなたはオレと一緒にいればいいんです」 桁外れな私への自信も 「今ここで、全部承諾しないと きっと後悔しますよ? あなたが今までにした“後悔”なんか後悔と思えないくらいの背負い切れないほどの悔いを」 もう 既に後悔していた。 逃げられないことに 逃げられないところまで陣内に嵌ってしまっている自分に。 さっきまであんなに気になっていた掌の焦りが 嘘のように消えていて、そこを自分から握り締めた。
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