カルテ10

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「陣内」 「なんですか、有馬さん」 「いいよ。 分かった、陣内」 陣内はきっと引き下がらない。 「一緒になったげる」 握った手を手繰って 陣内に歩み寄り そして、見上げた。 とても、凛々しいマスクを被ったイケ男。 「だけど、色々…… 諸々終わってからに、して」 いつの間に こんな芸当ができるようになったんだろうか。 乞い願うように、目を細めて 相手の出方を待つようにひれ伏す。 だけど、必ず 「分かりました」 そう、言わせてしまうような、甘いお願いができるように。 「ありがと、陣内」 決して人通りがない訳じゃなかったけど 「誓いの、キスを」 こうする必要があると思った。 いつだったか、陣内がそんな風に言ったように わたしも真似て また、1歩詰める。 「陣内」 「うん」 腰を引き寄せられて密着する身体は あっという間に熱を持ち 薄い着衣を簡単にすり抜けていく。 「陣内、メガネ、邪魔……」 自ら伸ばした手で黒セルの目ヂカラ激減ゴーグルを引き抜きそのチカラをまともに浴びる。 真っ直ぐな陣内の想いは 私の容量なんて直ぐに埋め尽くしてしまうほど 濃厚で大きい。 唇が、もう、後ちょっとで触れるその瞬間に 口にした。 「優しくシて」 言い終わると同時に重なる唇。 ざわりと、周りの木が一斉に鳴り出す。 風がそこを駆け抜けた。
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