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いざ、心摘となった時。
「有馬、交代」
「は?」
「変わって」
「え」
「オレはここまで」
「だから、は??」
先輩が1歩退いて、私に交代を告げる。
「元々オレはここまでしか頼まれてないんだ」
「いや、訳分かんないですけど」
「移植、プロがいるんなら、そっちに任せるのが順当だろ。
いや、知らなかったからさ……彼のこと」
「か、れ?」
「そ。さ、早く変わって
ドナー心、見るわ。こっちは任せろ」
かれ、と言われて思い当たるプロなんて
1人しかいない。
だけど……
今、まだ他のモノを……
「ほら、ああ心配すんな。
加倉井さんとこも了承済み」
バッグを開けて取り出した氷漬けのドナー心。
その氷冷生食水の中で大動脈と肺動脈の間を調べ始めた。
あぁ、と気付いて。
早くしないと……使い物にならなくなる。
加倉井さんの心臓に触れた。
不意に、身体の中にあるのに、動いていないそれに物凄くショックを受けた。
初めての感覚だ。
動きを止めた心臓なんて
何度も何度も触ってきたのに。
ただ、腹を貸しただけのこの子が
こんな事になってしまったのは、自分の所為だとどこかで思っているからなんだ。
知らなければ良かったのかもしれない。
陣内を好きな女子高生で済ませれば良かったのかもしれない。
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