カルテ10

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「ねぇ、食べていい?腹ペコなんだけど」 「食うために出したんだ、食えよ」 ビールを手酌で注ぎ ついでに私のグラスも満タンにする。 「ねぇアンタのお母さん、どうしてんの」 「そんなことを聞いてどうするんだ」 「……どうするんだろ…… だいたい私の親はどこにいるんだろ、か」 母親は蒸発。 父親は行方知れず。 「会いたいのか」 「は?」 「お前のダメな家族に」 嫌味な事を言っても、やっぱり顔だけは素晴らしいので、その嫌味だって威力は半減だ。 「……会いたいとは、思わないな……」 会ったら 殴るか 投げるか くっそう、どうしてくれよう……。 「オレは会えるもんなら、会ってみたい」 クソ代表ザルが、ちょっと遠くを見つめた。 会ってみたい、という事は 父親は他界していると、聞いた。 母親も傍にはいない、ってことだ。 と、なると もう亡くなったのか。 「オレの凄まじい成長を見なきゃ人生損するだろ」 アハハハハ、と高い笑いを響かせる。 クソ代表の言う事をどこまでマトモに聞いていいのか分からない。 そういえば毛嫌いしすぎてこんな風に話したことなんてなかった。 いや、今でも嫌いな事には変わりない。 空きっ腹に飲み込んだビールが胃の中をジンジンさせる。 旨そうなツマミは確実に美味かった。 ああ、そうだ。 クソ代表ザルがビールをワインに変えた頃 思い付いたように、軽く口にした。 「お前、まさかタダで済むと思ってないよな?」 瓶ビールって……結局どれだけ飲んだか分からなくなる。 しかもブレイドさんが空いた瓶を片付けてくれるから尚更だ。 「は?」 「人にモノを頼んで、タダで済むと思ってないだろ? 特にこんな特殊な世界では、な?」 やっぱりか。 おかしいな、と、思ったんだよね。 「何が望みだ、クソザル……」 グラスをガチャンと置いて顔を上げて、目が合った瞬間 陣内とは違う種類の甘いマスクが 一層その度合いを跳ねあげた。
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