ファイナルカルテ

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『 苦いお薬は飲みたくない!』 『 日本の諺にさ、“良薬口に苦し”ってのがあんのよ』 6歳の女の子、路胤(ノユン)はプックリと頬を膨らませた。 この子は1年前、私に喉も見せてくれなかった 手のかかるガキんちょだ。 『 知らないオバサンに見せるのはヤダ!』 と、ガラガラなしゃがれ声で頑なに断られたからだ。 『 ノーニャ、薬、粉じゃなきゃいいんじゃない? 錠剤にしてみる? 水と一緒に飲んじゃえばイイよ。 何キロだっけか』 『 女の子に体重聞くなんて、失礼だぁ!』 こんな風に楽しくやってるさ。 捨てたもんじゃないでしょ。 なかなか、評判もいいんだよ。 うちの病院。 …………姜先生のおかげで。 『 路胤(ノユン)、あんまり咳が長引くのは良くないよ? ちゃんと今のうちに治しとかないと 夏休みどこも行けないよ?』 『 姜先生ぃー』 はんっ。 どいつもこいつも若い男に騙されやがって。 なんだ、バカヤロー。 だいたい姜なんて ……姜なんて…… ディスるとこなんて、なくね? 『 姜先生みたいなイイ男と一緒だなんて ほんと、羨ましいねぇ? バイシ ソンセンニ(白石先生)』 『そうかな』 じいちゃんばあちゃんからの人気は 姜より私の方が絶大だし。 『お大事にー』 『またねー、姜先生ー』 おい、私には 私にはないのか、御挨拶は。 こら、ノーニャっ! 「あ、っと……」 また、間違えた。 今でもまだ、たまに自分のサインを間違える事がある。 韓国での私の名前は、“白石”だから。 ハングル文字はある程度読めるようにはなったが、書くのは面倒臭い。 だから、Shiraishi、と綴るようにしてるんだけど いつもの癖で、Aと書いてしまって慌てる。 『白石先生、午後からの予定』 『へぃへーい』 姜は、今朝届いたばかりのFAX用紙を私の机の上に置いた。 『……なるほど、与党幹部だね、この人確か』 『一応、体調不良で検査入院ということにされてる』 『ふーん、大統領の“弁泣き”だもんねー つつかれたら困るのか……』 私がピッ、と用紙を姜に突き返すと それを受け取った姜の眉間が狭まった。 『ベ ンナキィ、とはなんだ?』 姜はほんと、こういうところに物凄く喰い付いてくる。 おかしくて、おかしくて。
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