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1年と少し前、私が腹を貸した加倉井さんの
心臓移植が無事に終わったその日から3日後
私は行方を眩ませる。
勿論、白石の力が掛かっているので
うまく上手く事は処理されていて
例えば
心臓移植自体、私が執刀した事実は無かったことになっていたり
例えば
救命センターでの引継ぎは事前に白石が用意した救命専門医3名で済んでいたり
例えば
マンションは私がいなくなると同時に処分されて
ボスにお金が返金されていたり
“有馬望絵”という痕跡は
私と関わった人の記憶の中にしかない。
まさか、自分がロクでもない両親と同じような
“失踪”紛いを演じるなんて思ってなかった。
『白石先生』
『なに?』
自分が、とてもとても憎んでいた“白石”という姓を名乗ることも、全くの想定外。
『先生は時々物凄く懐かしそうにオレを見るけど』
しかも、“白石”しか……みんなは知らない。
望絵、という名前をこの1年、人前に晒した事はない。
『そう?』
『誰かに似てる?』
『え?』
『オレが、誰かに似てる?』
姜が?
誰に?
『似てない』
姜を見上げて、ちょっとだけ笑う。
陣内は、もう少し背が高くて
もっと黒髪で
もっと挑発的に私を見る。
かかってこいや、的な。
いや、違うな。
もっと、いつでも
私を好きだと言い
甘やかして、嬲るんだ。
そんな陣内は
この1年で移植件数トップクラスの
腕利きドクターとして、名を馳せるまでになっていた。
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