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なんだか、ひと昔前を思い出す。
その時は私の立ち位置は今と逆だった。
『姜先生、そこ引っ掛けて』
『ここか』
『エコー図見てたら分かるでしょ』
大統領の弁泣きである政治家さん、MR MICS(僧帽弁閉鎖不全症、ちょっとしか切開しないよ術)真っ最中。
『あー、結構飛び出してるね』
『これ?』
『よし、さっきの計画通りに進めよー』
鼠径部から繋いだ体外循環。
麻酔と、生体のエトセトラを私たちは2人で管理する。
有り得ないでしょ、普通。
有り得ないことだし、んなことできるかよ、って。
初めはそう思ってた。
流石に人の手を借りる事もあるけど
今日のこれくらいなら、まぁ、無問題。
時間はちょっと掛かるけど
安全性と正確性には他の病院に劣らない。
劣らないどころか、それを求めてこうしてこっそり治療を頼まれるくらいだ。
しかも、最短術後4日で退院できる。
まぁ、色んな制約付きだけど。
『切って、貼ってー、ざっくり!』
『ふざけんなよ』
『あら、本気モードなんですが……
はやく、やっちゃおう』
先生ともこんな風にめちゃくちゃなトークをしながらオペをした。
あの人は既に神の領域だったけど
私はまだまだそうではない。
だけどこの1年で表の世界ではないところに
売った私の“バイシ”という名は、陣内にも勝るとも劣らない。
例えばそれが陣内の耳に入ったとしても
私だと勘付く事はない。
なんせ、“バイシ”は若い男性だから。
ああ、勘違いしないでいただきたい。
この進路を選んだのは、私、自身だ。
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