ファイナルカルテ

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『おっと、ちょい待った』 なんせ、胸骨切開しない ちょい開きの創からカメラを突っ込みながらの 素晴らしい手技見せオペだ。 術野が狭いぶん、患者にかかる負担は物凄く小さいけど、こっちには多大な手腕が求められる。 『姜先生、こっち見えた方が分かり易いか』 『なるほど』 カメラの位置を少し修正しながら進めていく。 オペ前に申し合わせをして どういう風に弁を形成するかを細かく打ち合わせた。 手が大きくても 器械を操るそのスキルはとても細やかで 丁寧だった。 こればっかりは、元々兼ね備わった資質が大半で それに加え、姜はとても勉強熱心な努力家。 『姜先生、うまいじゃん』 ……陣内もこんな時があったのかな、と ふと、真剣な目をして集中する若い彼を見て思った。 陣内の振る舞う医療行為は沢山の人に知ってもらうべきだ。 世の中に“専門”として認知されてしまうと 物凄く忙しくなるのは当たり前で だけど、人間、その道を極める為には 少しだけそれに真剣に向き合う時間が必要だ。 平面から、少しだけ浮いた立体の次元で捉えることができる私と 完璧に3Dで見渡せるヤツ。 私なんかよりはるかに高い技術の持ち主だ。 加倉井さんのオペで嫌というほど思い知らされた。 普通のオペなら“執刀医”がいて“第一助手”、その他 と、続くけど あれは、お互いが執刀した、と言っても過言ではない。 しかも、同時進行で互いの範囲が邪魔にならないような物凄く緻密なスキル。 陣内が私に被らないようにアプローチしたからだ。 「くそ……」 『なに?』 『あ、違う、独り言』 陣内が有名になってくれた事は 私もほんとに嬉しい限り。
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