カルテ11

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心移植の現場って もっと静かで真面目な雰囲気の筈だ。 当たり前だ。 だって、移植なんだよ。 上手くいったとしても、この後、24時間以内に起こるかもしれない危機的状況。 これからずっと付き纏う危険。 それにずっと飲み続けなければならない沢山の薬。 決して 安定した生活を与えられた訳じゃないことに 生涯、付き合っていかなきゃならない。 なのに 「有馬さん、ほんとに綺麗に仕上げますね。 加倉井さんも喜びますよ」 「あんた、そこ大事なとこよ、捻れたりしたら元も子もないからね。 加倉井さんの性格、これ以上捻れたら大変よ」 「ぷっ、望絵せんせっ!」 「おい、お前、ほんとにやったことないのか」 「もー、先輩、しつこい! ないですってば!」 「4-0」 「はい」 『 君たち!ほんとに移植の専門チームじゃないのか??』 なんか、偉そうなオッサンが上から呟いてきたが 無視。 「だから違うって言ってんのに! 気が散るから外野は黙っててよ!」 外周ナースが上からのスピーキングを切ってくれた。 私がなんでこんなに強気な態度を見せるのか 誰もきっと不思議には思わないだろう。 「Ao(大動脈)完了」 「……おい、待てよ速すぎるだろ」 「陣内より速くないですってば」 時々突っ込んでくる先輩。 「ね、有馬さん、さっきからそれ、違う意味でしょ」 「は? 何を仰いますか、陣内センセー。 吻合も結紮も、決壊も、ものすっごく綺麗で速いですよね」 「け、けっかい?」 「やーだー、望絵先生ぇ」 「有馬さん、ほんといい根性してますね」 「狭窄してたらあんたのも同じようにしてやるから」 「しませんよ、絶対」 「はんっ」 プチっ、と糸がカットされる音がして 陣内と私の攻防がいったん止む。
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