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心移植の現場って
もっと静かで真面目な雰囲気の筈だ。
当たり前だ。
だって、移植なんだよ。
上手くいったとしても、この後、24時間以内に起こるかもしれない危機的状況。
これからずっと付き纏う危険。
それにずっと飲み続けなければならない沢山の薬。
決して
安定した生活を与えられた訳じゃないことに
生涯、付き合っていかなきゃならない。
なのに
「有馬さん、ほんとに綺麗に仕上げますね。
加倉井さんも喜びますよ」
「あんた、そこ大事なとこよ、捻れたりしたら元も子もないからね。
加倉井さんの性格、これ以上捻れたら大変よ」
「ぷっ、望絵せんせっ!」
「おい、お前、ほんとにやったことないのか」
「もー、先輩、しつこい!
ないですってば!」
「4-0」
「はい」
『 君たち!ほんとに移植の専門チームじゃないのか??』
なんか、偉そうなオッサンが上から呟いてきたが
無視。
「だから違うって言ってんのに!
気が散るから外野は黙っててよ!」
外周ナースが上からのスピーキングを切ってくれた。
私がなんでこんなに強気な態度を見せるのか
誰もきっと不思議には思わないだろう。
「Ao(大動脈)完了」
「……おい、待てよ速すぎるだろ」
「陣内より速くないですってば」
時々突っ込んでくる先輩。
「ね、有馬さん、さっきからそれ、違う意味でしょ」
「は?
何を仰いますか、陣内センセー。
吻合も結紮も、決壊も、ものすっごく綺麗で速いですよね」
「け、けっかい?」
「やーだー、望絵先生ぇ」
「有馬さん、ほんといい根性してますね」
「狭窄してたらあんたのも同じようにしてやるから」
「しませんよ、絶対」
「はんっ」
プチっ、と糸がカットされる音がして
陣内と私の攻防がいったん止む。
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