ファイナルカルテ

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こんな事を言っても 面構えがイケテルと許されるのか。 ゴクリと音がハッキリ聞こえるくらいに飲み込んだ固唾。 目の前の麗しい黒い獣、のような陣内。 私の口が愛しい? 捩じ込むって、何を? 頭の中でいろんないんらんが騒ぎ出す。 騒ぎ出すのはそれだけじゃない。 「オレと一緒に日本に帰ってもらいますよ」 「い、いや、だから……それはム」 「言ったでしょ? 迎えに来た、って」 ラウンジに響く、甘い音色はジャズバラード。 ポロポロと零れるように弾かれている音たちは こんなステーキな場所にとても相応しかった。 「だから帰ってもらいますよ?」 「どこへ……」 「勿論、日本へ」 「荷物……」 「要りません。 有馬さんがいれば、それでいい」 「いや、パス、パスポー……」 「ちゃんと用意してありますから。 もう、逃げられませんよ? 有馬さん」 何時だったか…… 同じような色に輝く陣内を見た。 ライトの加減で 黒髪は黄金(オウゴン)に燃え 黒瞳は金(キン)に萌ゆる 陣内の姿を。 平然としている向こうに見える怒気は私をジワジワと呑み込む。 ビリビリと感じるそれに唇がカラカラになっていそうで、ウーロンティを流し込む。 バターとタラコが喉に押し流される。 一口サイズのサンドイッチに手をかけると 陣内からのアドバイスが飛んだ。 「あんまり食べない方がいいんじゃないですか?」 そ、それはどういう…… どういう意味ですか……。 思い当たる点が、一つ、頭の中でフラグを立ちあげる。 「吐いても容赦しませんよ」 「え」 顔色一つ変えない黒い獣、陣内と 濡れて痩せ細ったみっともない獲物、わたし。 吐くほど何を容赦しないというんだ…… 恐ろしくて 思わず引っ込めた手を見て 陣内は満足そうに、微笑(ワラ)った。
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