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「お前はどうすんの」
「は?」
心外の医局前まで辿り着いて
今まで笑ってた先輩の顔からそれが消える。
「有馬ぐらいなんでもできたらどうにでもなるんだろうけどな、お前欲ないの?」
「欲?」
「なんかで有名になろうとか、どっかの分野で飛び抜けようとか……」
「考えたことありません」
「真剣にどっかに注ぎ込むのもいいだろ」
「いや、いいです」
「救命で一生過ごすのか」
「そうです」
飛び抜ける役割が当てはまる人はたくさんいる。
その人たちに任せればいい。
だいたい、この後の進路は決まってる。
だから、心配しなくていーし。
「……なんだ、有馬、どうした」
「え?」
とても困り果てた先輩の顔が
すごく印象的だった。
「オレ、苛めたみたいだろ……」
「は?」
「陣内先生に見られたらエラいことになるだろーが」
伸びてきた掌が頭の天辺をポンポンと弾む。
「泣きやめ」
ドキリ、とした心臓。
緩く滑り落ちていく頬に感じる雫。
先輩はそれ以上何も言わなかった。
私は、もうじきこの病院を辞めるんだ。
それは、自分で決めたこと。
だから
なんで、泣いたのかさっぱり分かんない、分からなかった。
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