ファイナルカルテ

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市民の憩いの場、とされる清渓川(チョンゲチョン)は 30年ぶりに復元されたそうだ。 地下鉄1、2号線市庁(シチョン)駅が最寄り。 観光客が多いのも、ホテルが集う明洞(ミョンドン)から歩いて来られるというスポットだからだ。 それに、地元に根付いてる美味しい食堂もあるから余計に観光客が目立つ。 ソウルの中心部は、朝早くから多くの人で賑わっていた。 「ああ、そっか…… 日本人っぽい子供が多いのは……夏休みだから、ね」 滝のように流れる額と頬の汗を拭いながら約5キロのランニングを終えた私は 清渓川の脇を沢山の観光客とすれ違いながら積極的クールダウンをする。 要は、歩いてうちまで帰るところだ。 ほんと、健康的なんだけど。 40を目の前にして、マジ、健康的。 「アンニョンハセヨ! ソンセンニ(おはよー、先生)」 「アニョハセー」 異国、って感じに慣れたとはいえ まさか、自分が日本語文化圏を離れて生活するなんて思ってもみなかった。 “ピロン” 頼りない音が腕に巻いたスマホから聞こえてくる。 “朝飯” 「はいはい、分かったし」 日本の隣国、大韓民国にきてもう1年。 私の生活はガラリと大きく変わった。 まぁ、やることは基本、変わらないんだけど。 名目上、医者。 だけど、やってることは あのクソ代表ザルの言葉をまんま借りて 闇医者。 笑う? いや、笑わない。 結構、満足してる自分がいる。 この健康的な生活も 地元民からも親しまれるような医者生活も そして 『ただいまー』 上がり込んだ、見かけ普通の個人病院の受付で 汗をボタボタ落としながら軽くストレッチなんかするダメ女なところも。 『おい、さっき磨いたとこなんだよ、そこ』 『 あー、ごめん』 身の回りの世話をやいてくれる、若い男がいる生活も。
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