ファイナルカルテ2

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「……もうオペ終わったんだから帰るわよ」 「どこへですか?ああ、うち?」 より深さを増したような胡散臭さが漂う。 「そう、うち」 陣内と私の“うち”は、完っ璧に“うち”違いだ。 「疲れた」 「そうですか、待っててください」 陣内は相変わらずだ。 なんか、どこか、余裕綽々で 隙が、ない。 ポケットに入ったスマホを取り出して メールか、それともラインか、画面をタップする指がヤーラシー感じに見えてしまう。 私、変態度重症……かも。 昨日、何の荷物も持たずにここに来て 陣内のチームに合流した。 夜通し資料を眺めて、頭の中でシミュ起こして 朝方に爆睡。 急激な環境の変化に頭と身体を保つのが大変だ。 「有馬さん、迎えがきますから 待っててください」 「そ」 「ああ、そうだ、その前に……」 「……え?」 グイ、と肘を引かれて ズンズンと進んでいく。 陣内は勝手知ったるところだけど 私はこのセンターは初めての場所で 何が何処にあるのか、分からない。 分からないのに、分かるかもしれないのも ムカつくけど。 「ちょっと!」 な、なに、この、いかにも誰もほぼ、通りません、的な廊下は! 見慣れたマークのついた扉の前。 ああ、やっぱり、と 何となくの落胆とそれよりも遥かに勝る期待がぶわりと膨らむ。 ……そんなことは言えないけど。 死んでも言えないけど。
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