ファイナルカルテ2

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「どうぞ」 丁寧に頭を下げる姿勢は こないだと変わっていない。 「どーも」 黒く塗られた艶々の車。 最近は慣れた、ブレイドさん運転の助手席に乗り込んでシートベルトもせずに、はぁ、と深くシートに凭れた。 ブレイドさんとは定期的にソウルで会っていたから 懐かしさ、というのはそんなに無くて どっちかというと、どうしてこんな展開になっているのか、そっちのが聞きたい。 「良かったですね、有馬先生」 「は?」 「岳杜さんと」 「いやいや、どういうことか説明願いたいし」 フフフ、と笑いながらアクセルを静かに踏み込んだブレイドさんを白い目で見ながら そこに、ふ、と視界に飛び込んだバックミラー。 「ぎゃあ!」 「なんだ、闇医者」 「なんでアンタがいんのよ!」 暗闇に埋もれる美形ナンバーワン。 くっそ。 ほんと、顔だけは褒めてやる。 「これはオレの車だ、文句あるか お前なんかついでに拾われただけだ」 「は!?」 「有馬先生、危ないから座ってください」 「ふん、バカ医者め」 く、く、くそぅ!! 10も離れてるガキに軽く扱われて 誠に遺憾だ! 助手席から後ろに身を乗り出すダメ女を片手で制するブレイドさんもさぞかし大変だろう。 「それはそうと……闇医者」 「なによ」 ス、と顔の横に出された何かの紙。 よく見たら、何かの手紙、のような可愛らしい便箋。 ハートのキラキラシールで封がしてあるそこら辺が、おばさん目にも眩しい限りだ。 「なにこれ」 「さぁな、ラブレターだろ」 「は?」 手に取って、宛名を見て、ハッとした。 『親愛なるドナー様・御家族様』 移植を受けたレシピエントからドナーへのサンクスレターだ。 クソ代表ザルが私に渡す必要のある手紙に心当たりはひとつ。 「加倉井のお嬢さんがドナー家族に書いたもんだ。 けど、ドナーもその身内もいない」 「じゃ、なんで私に渡すのよ」 加倉井さんの自署を裏側に見つけて なんだか、ジワジワと膨らんで来るものがある。 「コーディネーターはオレだからな? サンクスレターとやらも誰に渡すか決定権があるだろ?」 いらない、とは言わなかった。 これは加倉井さんが幸せな時間を過ごせている一つの証拠だからだ。
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