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ほんとに、これを手伝わなきゃならないのか。
手に取った資料を見て
ちょっと、考える。
単独の移植術とは大きな違いがある、同時移植。
沢山の決め事やルールと禁忌がある。
心臓血管外科と呼吸器外科の密なスケジュールの擦り合わせに
医師同士のスキル
そしてなにより、その患者の事を知らなくてはならない。
しかも、ドナーから取り出したグラフト(※移植する臓器片のこと)を丁重、かつ新鮮なまま運び
その間、レシピエントの循環を管理し、移植、吻合、封合、血流再開までを4時間以内で終わらせなければならない。
しかも私がやったことのあるのは、成人の同時移植であって
「このレシピエント、子供じゃん」
小児に対する心肺同時移植なんて、国内でやったことあったっけ?
私が白石にいた当時はまだ実績がなかった。
いや、確か、4、5年前くらいでも例がなかった筈だ。
「なんで、日本でやるかなぁ」
海外では何度となく成功例があって
しかも、20年以上生存している人もだいたい5割の確率でいるはず。
成人の同時移植だって、日本じゃたったの2例?ぽっちだ。
「ドナーが見つかったんですよ」
「……これ、いつだっけ?」
「明後日」
後ろから、陣内の声がした。
「……なんでもっと早くに連絡しないかな」
「忙しかったんで」
「……ヤルなら連絡くらいできるでしょ」
「韓国にいるのは知ってましたけど
ここを突き止めるのに時間がかかりました」
ああ、そう。
「有馬さんが1年以上も行方しれずになったりするからですよ」
ああ、そうね。
陣内の声がだんだん近付いてきた。
「有馬さん」
「なに」
「飲んでもらいますよ」
「は??」
振り向いた瞬間に、見るんじゃなかった、と、思った。
「1年以上、溜まった超濃厚なクリーム」
「あんた、なにやってんのよ!」
いや、それよりも、なに、1年以上も溜めたの?
ウソでしょ!
あんたがオナらない訳ないでしょ!
クソみそ真面目腐った顔で、全裸で立ちはだかった陣内の、これまた勃ちはだかった股間には、フェイスタオルが被せてあった。
「ね、そのカッコ……」
笑いたいのに、怖くて、もう何もかもが怖くて笑えない。
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