ファイナルカルテ2

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「有馬さんの所為ですよ」 その姿で迫ってこないで、お願いだから!! 笑いたいけど、面白怖くて、唇の端が引き攣る。 いや、凄いよ。 陣内、凄い。 陣内の陳内は凄いから! 「ちょ、そばに来ないでよ!」 「有馬さんが煽ったんでしょうが」 「は!」 「あーんなエッロエロなことしといて まだ逃げるか」 ピッと指さした先は、ガラス張りのそこ。 こっちから見るとまた、見え方が違う。 いったいどんな動物が暴れたんだ、というようなそんな跡がざくり、ザクリと描かれていた。 「もっと焦らして待たせてやろうかと思いましたけど……こうなっちゃったから仕方ないですよね? 有馬さん」 見下ろすその視線には燃えるような熱さ。 見下すその視線には 冷冷たる冷たさ。 やっぱりどっちも混在しているそれに 身体も頭も浮つきを隠せない。 いやいや、1年以上も溜め込んだ癖に まだ待つつもりだったんだ。 いや 待って、そんな昔のモノを私に飲ませようというのか! それは、1年以上冷蔵庫で待機させた牛乳が “腐ったの通り越して、チーズになっちゃいました!”的な濃さってゆーか、もう、もう 「既に……か、塊に……」 「塊? 何がですか?ああ、クリームが? それでも仕方ないでしょ? 固まらせたのは自分なんだから」 「じ、じん」 「有馬さん、口」 これは、ど、どうすれば。 ソファいっぱいいっぱいまで追い詰められて ついに寝転んでしまった私の胸あたりに跨った陣内。 フェイスタオルの隙間から なんとなーく見える二つの立派なキャン玉バッグと にょき、と生えているドス黒いよーな、その根元。 「お口、あーん」 「いや、いやいや、イヤ、って意味だよ、嫌!わっぷ!」 フェイスタオルが ちょうど私の視線を隠してしまった。 「有馬さん、口、開けて……」 陣内の声が、一際、低く低く耳に染みた。
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