ハッピーカルテ2

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バージンロード……は和製英語らしく 正式にはウェディングロード。 花嫁さんの今までの人生を歩く、という神聖な路、なんだそう。 今までの人生か…… 夕べ陣内が言った通り、私の人生はちょっと特殊だった。 「有馬先生、お綺麗過ぎて、驚きました……」 「……前も、見てるでしょ」 私を庇ったブレイドさんは 二発の銃弾をこの大きな身体で受け止め 瀕死に陥った。 それを忘れていた訳ではないけど…… 「あの時とは比べ物になりません。 幸せが滲み出ています」 沈んでいく薄い朱が長い陽(ヒカリ)を差し伸べてくる。 雲と雲との隙間から届いたそれは ところどころで束を作り、海面を金色に浮かび上がらせていた。 「岳杜さんに大切にして貰っているんですね…… 社長も……、前社長もきっと喜んでいらっしゃいます」 一歩ずつを踏みしめるところから “人生の路”という名が付けられた通りだと思った。 物凄く長いように思えたウェディングロードは あっという間で 陣内の待つここまですぐだった。 「岳杜さん……宜しくお願いします」 深く深く頭を下げたブレイドさんに いつもの余裕を見せる陣内は 「勿論」 ゆっくりと私の手を掬う。 目に見えるものだけが 手で触れられるものだけが 幸せだとは限らない。 自分の人生の苦も楽も、やっと肯定できるようになった。 20年くらいかかったけど。 それまでに感じたあらゆるネガティブも 見方を変えれば全てが人生の糧。
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