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「へえ!?」
ビックリ顔の一葉の目に、ほんの少しの尊敬の念が垣間見えて舞い上がるんだから、俺も単純だ。
「自分に合った勉強法を模索できるのは1~2年のうちだから、色々試してみるといい。3年になってから試行錯誤する時間はないからね」
「はい」
やけに素直になった一葉を見ると、俺の言葉をメモしている。
いやいや、そんな大層なことは言ってないぞと、恥ずかしくなった。
どうやら一葉の本質は、母親の言った通り”大人しくて引っ込み思案”だったらしい。
回を重ねるごとに一葉の態度は素直になっていった。
知らない相手に対する警戒心が強くて、虚勢を張っていただけだ。
そんなことも見抜けなかったとは、俺もまだまだ修行が足りないな。
修行が足りないと言えば、近頃やけに一葉がかわいく見える。
ハタチの俺からすれば、ついこの間までランドセルを背負っていた12歳なんて問題外のはずなのに。
「仁科がカテキョのバイト始めたって聞いたから、絶対女子高生相手にデレデレしてるって思ってた」
そう言って笑ったサークル仲間の阿部は、俺が優菜にフられたことを知っているらしい。
どうせ優菜本人があっけらかんと話したんだろう。
「さすがに中1じゃ犯罪だよ」
「でも、今どきのJCは大人っぽいぞ」
口々にそんなことを言う仲間たちを無視して、俺は素振りを始めた。
『アウトドアサークル』は何でもアリのサークルで、今日は人が集まらないからバッティングセンターだ。
一葉なんてガキだ。
――ブン。
バットが空しく宙を切る。
胸なんてペッタンコだし、色気も何もない。
――ブン。
中1なら同級生や先輩を好きになるだろう。間違ってもハタチの大学生なんかを好きになったりはしない。オッサン扱いだ。
――ブン。
「朝陽! 調子悪いじゃん」
フェンスの向こうから声をかけてきた優菜をギロッと睨んだ。
『他に好きな人ができたの。ごめんね』
あの日の優菜のセリフが蘇る。
あっさりフッたくせに、何もなかったかのように声を掛けてくるんだな。
こっちだって、もう他に好きな子ができたんだ。
――カキン。
やっと当たった。
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