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泣いていたかと思えば途端に落ち着き、かと思えばまた顔を赤らめて。
自分の前で感情をあらわにするようになったことを純粋に嬉しく思いながらも、そろそろ笑った顔も見たいんだけどなぁと胸の内で呟き、少しだけ傷んだ九条の茶髪を撫でてやる。
「運命じゃなくたって、俺はお前のことを好きになったよ」
――絶対に
九条は語気を強めて、同調するように抱きしめていた華奢な身体を更に密着させる。
花屋を抱き寄せた、視線の先。
店の片隅にぽつりと佇む、細長い花瓶が、目に入る。
遠慮がちに佇み、それでも主張するように背を伸ばしているのは、黄色い花びらを幾重にも纏った一輪の向日葵。
嫌いなはずじゃなかっただろうか、そう思いながらも、素直じゃない奴だから、と双眼を細めて背を向けているその花弁を見つめる。生花だとわかっているのに何故か、その花弁はどんなに時が経とうとも枯れない気がする、九条はそう思った。
――枯れるからこそ、花は美しく咲くんだよ。秀次
かつて花屋の先代は九条にそう告げた。
それは真実だろう。でも爺さんだって、死に際まで満開の恋をしてたじゃねえか。
九条は天を仰いで笑ってやった。
だったら俺も、と子供のような対抗心を浮かべて、先刻紡いだ言葉から鼓動の音を駆け足で打ち鳴らしている花屋の耳元に顔をうずめて、またくちを開く。
「お前を幸せにしてやる、なんてドラマみてーなことは言えねえけど」
花屋がそろりと、視線を上げる。
熱を帯びたその瞳は、九条の身体に、再び熱を灯す。
「俺はお前と居たら、枯れない自信があるよ」
あの向日葵みたいに、九条は胸の内で呟く。
きっと甘い言葉が落とされ、勝手にそう思っていた花屋のくちから「は、」と吐息混じりの音が漏れて、それは嘲笑ったような音を成す。
「なんですかそれ……」
「はは、なんでも」
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