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「だから花屋のこと、俺は何度もちゃんと言葉にしてやろうって思ってんだけど、アイツ逃げるからさ」
ちいさな円卓に並ぶ空になった無数の皿に、そして九条の言葉にため息を吐いてから口を開く。
「それは、クジョーが覚悟できてないからだろう?」
「俺は意外と弱虫なんだよ、エドアルド・テスティーノ」
身の丈に合わないおおきな制服を纏っていた九条に、紡がれたフルネームを名乗って握手を交わした日のことを思い出す。彼はどこか寂しげで、それでいてその寂しさを諦めているようだとエドアルドは感じていた。だからこそ彼は九条に近づいたのだ。彼の中にわずかな楽しさを与えると同時に、勝手に彼の身内になったような気になって。
図体だけおおきくなっちゃってさぁ、と胸の内で呟きながらエドアルドはまたくちを開く。
「成長しないネェ、身体は一端に大きくなったのに。そんなんだから三毛さんも怒るんだよ」
「エドさんは俺の父ちゃんですか」
「おっ、いいねぇ。これからそう名乗っていい?」
「じゃあ今日は父ちゃんのおごりで」
九条は得意げに笑うとひらりと手を上げて店員にチェックを告げた。
笑顔でやってきた彼こそLOTUSに赴けば引く手あまたになりそうな整った顔立ちの青年が伝票を持ってくると、またカタコトの日本語を繕ってマケてくれるようにと身振り手振りを交える。彼らが常連であると知っている男は「じゃあファーストドリンクだけ」と言って微笑むと、ふたりは声を揃えて立ち上がりハイタッチをして抱き合う。
まるでタチの悪い、酔っ払いの客だと青年は苦笑いをしたが、それさえも店の活気となれば良しとして、結局のところ九条の口車に乗せられたエドアルドの長財布から全ての勘定が支払われた。
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