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 今日は何をしようか。  この日は市場に赴く予定もなく、日中であっても決して明るく綺麗とは言えない二丁目の路地裏を歩きながら花屋は考える。花たちの様子を見て、やってきた三毛猫に餌をやったあとねこじゃらしで遊んでやって、その後実家である長野に住む祖母との長電話を終えて、時刻は午後二時。なにをするにも中途半端な時間だ。  いつもならばフラフラと歩いていると顔見知りのイタリア人に話しかけられたり、行きつけのバーの見習いの男が大量のじゃが芋の皮を剥いていたのを見かけて手伝ったり、二丁目の奇々怪々な人々に流されるがままに過ごしていれば、休日などあっという間にすぎてしまうものだった。  それが今日に限って、誰とも会うことがない。人と馴れ合うのを好む性格ではなかったが、二丁目に住み始めてからひとと出会わない日がなかった花屋は、すっかりひとりでの休日の過ごし方を忘れてしまっていた。  帰って寝るか。  さして眠気に襲われているわけでもないが、ふらりふらりと目的もなく歩いていた足を古びれたアパートの方へと向けた。  鹿毛色の革靴をアスファルトに鳴らして歩く。遅めの昼休みを終えたサラリーマンが、美味しい昼食で鋭気を養ったのか真夏の太陽の下とは思えぬほど、清々しく背筋を伸ばして花屋の前を闊歩していた。  スーツを纏った見ず知らずの男の背中が、いやに眩しい。  花屋の脳裏に、昨夜の男の残像が過ぎる。  熱傷のように脳裏に焼き付いた、バラのブーケを片手に颯爽と去っていった向日葵のような男の笑顔と、伴って輝いていた左環視のシルバーリング。  帰ってからひとり自慰に浸って欲を吐き出し数時間の眠りに落ちて昂ぶった熱を解放したはずなのに、抗うことができずに身体は再び熱を灯して花屋はアパートに向かわせていた足を止める。
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