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 それからというもの、仕事を終えて店を終えて気が向いた日には、このバーを訪れるようになった。花屋が店に入るのは概々午前三時過ぎだったが、店に客がいないという日はなく、素性のわからぬ男たちはそんな時間であっても眠気を見せるどころか欲情を主張して素肌を重ね合う。カウンターの奥には隠し部屋もあるようで、時折そこに姿を消す男たちもいたが、花屋は狭い空間でセックスをするのが性に合わず、寄ってきた男を毎回ホテルへと誘った。   数ヶ月経った頃、花屋がこの日のように日中から暇を持て余していた日、ふらりと店の前を通って興味本位に扉を押してみた。こんな時間からやっているわけがないとおもったが、扉が施錠されていることもなければ、マスターは深夜と変わらずバーカウンターに立っていた。その時はじめて客がいなかったこともあり、花屋は店主とはじめて談笑を交わした。  年齢不詳の店主であったが、彼は花屋が生花店を継いだことも、無論先代のことも良く知っていた。  「うちの常連でね。君からしたら想像もできないだろうけど、死ぬ間際まで彼の人は紳士だった」   先代のことを多くは語らなかったが、その言葉を聞いて「ただのスケベジジイ」ではなかったのだと花屋は知る。  花屋がこの店はいつ開店するのかと尋ねると、僕が起きたらかな、と店主は笑う。不思議そうに目を丸くした花屋に「二丁目が好きで、ここに来る子たちは性癖はともかく、皆いい子ばかりでね。だから自分の店が好きで、二十四時間営業しているようなもんだよ」と言って誇らしげに店主は微笑む。  店主は花屋が馴れ合うのを好まないタイプの純朴な青年だと部類するも、随分とながい間せわになった先代のせいで花屋のことをただの客としては見ることができず、それを悟られぬように彼に言った。 「僕がアルコール中毒で倒れない限りはこの店はやっているから、困ったらいつでも来たらいい」    おっさんでよければ相手もするしね、と言って店主が自嘲すれば、色のない表情のまま会話を続けていた花屋も店主に気づかれぬほどわずかに微笑んで顔を俯かせたものだった。
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