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 途端に頭がぐらりぐらりと揺らされる。  男が目の前にいなければ、情けなくしゃがみこんでしまいたいほどの刺激に耐えたあと、カッとからだが熱くなった。あたたかな靴下に纏われた指の先から頭のてっぺんまで、ドクドクと血の流れを感じながら鼓動がおおきく脈打っている。  きっと一瞬のうちに顔も真っ赤になっただろうが、薄暗い照明の元ではそれもわからないだろうと、平静を繕って湿った口端を手の甲までを覆ったパイル地の袖口で拭った。 「もう一杯飲むか?」  にやり、と笑って男が尋ねる。 「遠慮しておきます」  ふたつ返事でそれを拒否すれば、男はまた楽しげに笑う。  男がまた手をあげて再度店主に何かを合図した。   彼自身の酒だろうか、それとも無理矢理にまた飲まされるのだろうか。折角マスターが至極のまかないを出してくれたというのに、半分も平らげる前にアルコールに溺れてしまった。自棄になってしまった数秒前をすぐに後悔する。  この男の隣にいると、どうにも理性が保てない。   冷静でいられず、身体ばかりが先に反応を示してしまう。  ――惚れた弱みさ  数年前、人生でたったひとり、情を寄せたた男に言われた言葉がこんな時に反芻する。最悪だ。 やっぱり今日は帰ろうと、ぐらぐらと揺らされる脳裏で確かに決意する。  マスターのまかないは勿体無いが、彼のことだからまた食べさせてくれるだろう。適当にこの男をあしらって、燃え上がりそうな身体をどうにか否したら、二本の足で汚いアスファルトの道を歩いて帰途につこう。  脳裏ではちゃんと描けているのだが、熱くなった花屋の身体は思うように動かない。
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