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雑踏に姿を消した女のような客は少ない。
花屋の店を訪れるのは専らホストかホステス、それか所謂堅気ではない道の男たち。夜から明け方まで、場合によっては花屋の気が向いた時間しか開いていなく、傍から見ても繁盛しているとは思われなかったが、羽振りの良い客たちのお陰で店は安定した経営を続けていた。
鼻筋の通った端正な顔立ちにさらりと揺れる茶色の頭髪、艶のある白い素肌に小奇麗なシャツを身にまとった花屋は、場所柄、その道の男達に声をかけられることもしばしばだった。実際のところ花屋自身も根っからのゲイであったから、その手の誘いに慣れていないことはなかった。
この日も一輪の花も見ずにじっと自分を見つめてくるだけの筋肉質な黒髪の男に気づいては大きくため息を吐き出し、男が見るからにタチだとわかるや否や、花屋は入口で佇む男に歩み寄る。
そして男の臀部の割れ目をふたつ、ノックして花屋は言う。「突っ込んで欲しいなら他を当たってくれ。この辺は相手に苦労しないだろう?」
冷徹な視線を向けて告げられれば、男は息を飲んだあとひとつ笑いを吐いて、降参とばかりに両の手を挙げた。
「アンタなら俺でもネコに目覚めちまいそうだけど、今日はお言葉に従うよ」
そう言った男に一変、愛想の良い笑顔を振りまき花屋はやれやれともう一度ため息を吐いた。
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