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 夜の二丁目に、薄暗い路地に、そして特異な客ばかり来るこの店に、不釣合いなほど純情できらきらと向日葵のように輝くその笑顔が苦手だと思うのに、花屋は視線が離せなかった。  ついさっきまでセックスをしたくて、適当な相手に貪られて欲を吐き出したくてたまらなかった身体の熱は、いとも簡単にベクトルが変わる。眩しすぎて目も当てられない男の笑顔に、嫌悪と焦燥が湧き上がって、しかし無慈悲にも、脳裏に浮かべていた適当な相手は彼の姿に成り代わり妄想となる。どうしようもない下腹部の熱を彼に触れられたいと思ってしまっては、あまりに軽薄であさましいと胸の内で自嘲して、花屋はキツく奥歯を噛み締めた。 「お花屋さん?」   ふとブーケから視線を逸らした男が、拳をキツく握り俯く花屋のほうを向いて首を傾げる。身体を寄せてじっと花屋の瞳を見つめては傾げる首は覚悟をさらに鋭角にする。 「お花屋さん、目悪いの? こんな近くにいるんだけど、見えてるか?」  汗とタバコ、それに一杯引っ掛けてきたであろうアルコールの混ざった香りが鼻をついてようやく花屋は肩を揺らして勢いよく後ずさりする。  そして花屋は顔を逸らし、レジのボタンの音を鳴らしては、平素の無表情を繕ってくちを開く。 「六百円です」   頬が赤いままであるのは、灯りを一段階落とした店内では男にはわからないものになる。  視線の合わぬ花屋を厭わずに男は後ろポケットから財布を取り出し、千円札を一枚差し出した。
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