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 花屋はどうしようもなく毛艶の悪い三毛猫に助けを求めてしまいたかったが、彼女の姿はそこにはない。  懺悔をすることしかできないのだ。花屋はそう思って立ち上がる。 「貴方が、お花屋さん?」  刺されても文句を言えない立場であるのに、紡がれた女の声は一輪のスイトピーの花のように清楚で美しい音を奏でた。 「はい……」   イタリア人は今にも踊りだしそうな顔で笑ったまま。   女は微笑みながらも、その表情は花屋に恐怖を与える。それでも、彼女をまっすぐに見つめる。「貴方にお話があって、エドアルドさんに連れてきてもらったの。疲れているところ申し訳ないんだけれど、ご飯でも食べながらお話してくれないかしら?」   女の言葉に、刺はない。スイトピーは薔薇に成り代わることなく、柔和にそよいでいるように。   自分に拒否権はない、花屋はそう思う前に首を縦に振っていた。   後ろポケットで鳴り響く九条からの着信に、返事をする術はなかった。
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