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 時は巡る。 人間であっても三毛猫であっても  どんなに貧困であっても裕福であっても    恋路の行く末に胸を締め付けられていても、それを達観していても淀みなく、止まることなく時計は秒針を刻み続ける。  それは全世界共通の事実であったが、僕はこの二丁目で巡る季節を眺めることが好きだと、ブロンドの短髪を揺らす、翡翠色の瞳の持ち主は思う。  二丁目はニッポンの、いや、世界の縮図だよ  かつて二丁目生花店の先代が花屋に紡いだ言葉と酷似する台詞を流暢な日本語で紡ぎながら彼は生臭い匂いが立ち込める路地裏を闊歩する。  彼の名前はエドアルド・テスティーノ  日中は都立高校の英語教師、夜になると在日外国人のためのスクールで日本語を教え、その後は教師であることを感じさせぬ、それでいていかにもゲイ受けしそうな私服に身を包み、二丁目の街に現れるのである。  日本にやってきてから二十年が経ったが、彼の真の年齢を知る者はいない。  夜半から明け方にかけて彼の目撃情報は途絶えることはなく、教師としての勤務も一日も欠勤したことがないという噂から、彼は寝ていない、はたまた人間ではないのかもしれないという不毛な噂もしばしばだった。
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