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「ハーイ、クジョー。オマタセ」
「いいよ、その外国人気取り」
「ノーノー、ワタシ善良なイタリア人ネ。気取ってなんかないヨー、今日はクジョーのオゴリネ」
「そこは割り勘な。お前のが手取りいいの知ってんだぞー?」
ふたりの男が向日葵畑に足を向けた日から、時はわずかに遡る。
七夕を迎えるよりも一週間ほど前の星の瞬く夜のこと、エドアルドと九条はひとつのテーブルに片肘を付きながらグラスを合わせて乾杯の音を鳴らした。
そこはLOTUSではなく、一般的な、それでいて二丁目にありながらも門戸が広く、オフィスレディたちも気軽にやってくるようなイタリアンバーだった。
エドアルドと九条の関係はもう何年も前から続いていた。とはいうものの、専ら彼らをゲイの中で分類するのであれば双方においてタチであったから、彼らに身体の関係はない。親友、という言葉にするには子供じみているから、腐れ縁だと彼らは笑うが、その言葉が彼らの関係を表すのには最適な言葉だ。
「うーん、やっぱうまいなぁここの生ハム」
「ホントソレー」
「そんな流行り言葉どこで覚えたの」
「カワイイ女子高生が教えてくれたんだ」
時にこうして、健全なバーで健全な酒を酌み交わしながら、エドアルド曰く本場イタリアよりも美味しい料理に舌鼓を打つ。
真夏であるのに真冬の鍋の話をぶり返したり、季節外れの寒ブリのうまい店に行きたいとエドアルドが言葉を並び立てたり、今度は九条が仕事の近況報告から流行りのアイドルのことを語りだし、話題に事欠くことはない。
しかしこの日は珍しく、エドアルドが季節の話をしだしたものだから九条はどうもおかしいと防御の姿勢で身構えていた。それでも翡翠色の瞳の男はそれを強引に蹴破るように話題を続ける。
「来週はたなばたネェ、クジョーのヒコボシは花屋さんで待ってくれてるノ?」
「ちょっと待ってエドさん、なんで俺がオリヒメなんだ」
九条が彼のことをエドさんと呼ぶようになったのも随分前のことだ。彼と知り合った時九条はまだ毛も生え揃わない中学生で、当時既に二丁目の名物として有名になっていたエドアルドに出会う前からその名前だけを先に知っていた九条は、勝手にそう名付けたものだった。
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