第4話 ここは何処

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第4話 ここは何処

俺の手には確かな手応えが残っている。例え、倒した筈のアラクネ成体が綺麗さっぱり消えていたとしても。 間違いなく倒した筈だ。多分。何故かって、先程までいた筈の明るい通路から、今度は薄暗いホールのような場所へ移動したからだ。あまりの突然の変わりように戸惑った。手応えがある以上、間違いなくアラクネは本物だった筈だ。 考える必要がある。 俺は剣を納め、額に浮いた汗を腕で拭う。肌に触れた籠手が痛い。一つ深呼吸をすると、周りの状況を確認しようと半身だけ回転させる。真っ先に頬を紅潮させたアリサが走って来るのが目に入る。 「先輩さん!」 体当たりする程の喜びらしく、その衝撃で俺は軽く後ろへよろめいた。がっしりと言っても良い程の強い抱擁を受け、状況が状況でなければ嬉しかったと思う。泣きながらしがみ付いて来る彼女を他所に周囲を観察した。壁と柱しか見えない。つまり出口がない。 円形の柱は等間隔に、円を描くように設置され、柱にはそれぞれ蝋燭の弱い明りが心細い。上を見上げれば、ずいぶんと高い天井まで明かりが届かずよく見えないが、薄ぼんやりと半円球らしい丸みを帯びているように見える。本来ならある筈の明り取りの開口部が無いようだ。 二階と呼んで良いのだろうか、壁の高い場所にアーチ状の穴が等間隔に空いている。そこへ上がる為の階段が見えないが。 「……所でアリサ。そろそろ放してくれないだろうか? 段々痛くなって来たんだけどなぁ」 そう、息が詰まりそうになる程、どんどんアリサが強く抱きしめて来たのだ。泣いているせいか俺の声が聞こえて無いようだ。 「あ、先輩さん。って、何してるんですか!」 アーチ状の穴の一つからアリサが顔を出し、悲鳴を上げる。柵に両手をつき、身を乗り出して叫ぶ姿が少し艶っぽいと思っていると言ったらおそらく殴られるだろうなとぼんやり思う。 「成程、剣を納めたのは間違いだったな」 今や絞殺さんばかりの強さへ変わり、絞めているアリサの頭を見下ろすと、苦しい中、肺から空気を絞り出して、溜息をついて見せる。 「仲間と、顔と、同じってやり辛いなっと!」 太ももにある短剣を辛うじて抜き、空いている脇腹を刺す。絞められた状況から腕の力が入らずかなり浅い。偽アリサもお構いなしに力を更に入れて来た。腕の筋肉が軋みを上げ、握っていた短剣を落とした。 「先輩!」 視界が黒く染まる瞬間、アリサの声を聴いた。
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