第6話 だらしない

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第6話 だらしない

「せいやッ!」 苦しさで遠のきかけた意識の中、予想外の音が立て続けに聞こえ、瞼を開けると目の前にグロイ物が展開していた。思わずえずきかけて根性で押しとどめる。せり上がって来る物を元の位置に戻す為に一つ深呼吸した。俺自身がした事なら平気なのだが、どうも他の人が切り倒した物や潰された物はどうにもキツイものがある。 意を決して、もう一度見れば、アリサの杖が深々と頭にめり込んだ偽アリサの姿と、床に倒れているアリサの姿が見えた。アリサを助け起こすためにも、未だ強い力で巻き付いている偽アリサを全身の力を使って振り解く。今度はすんなりと外れ、偽アリサが床へ崩れ落ちた。 近くに座り込んでいるアリサへ歩み寄ると手を差し出した。 「それにしても君、凄いな。あの高さから飛び降りて、頭に狙って打ち下ろすとはなかなかできないぞ」 「いえ、これくらいしないと……ひゃ!?」 臀部を摩りながら立ち上がろうとして、膝に力が入らなかったのか、また床に尻をついてしまったアリサに「ありがとう」と言って腕を取ると立ち上がらせ、ふらつく彼女を支える為に背中へ手を回す。 「あ、私の方こそ、ありがとうございます」 顔を真っ赤に染めて俯くアリサ。そっと俺から離れようと小走り気味に歩き、偽アリサの頭に刺さった杖を抜こうと近寄って行く。杖に触れた瞬間、微かに杖が震えた。 「あら?」 不思議そうな声を出す。俺は、一気に距離を詰め、剣を抜き叩き付けるように振り下ろす。剣からは妙な柔らかさが伝わって来た。柔らかすぎる。 「離れろ!」 アリサの体を押し、後ろへ下がらせる。床に倒れていた偽アリスが関節を無視したおぞましい動きで立ち上がると、頭に食い込んだままの杖が頭へ飲み込まれて体内を移動したのか、腕からアリサの杖が出て来た。形を自由に変えられるとなると、剣とは相性が最悪だ。 もはやアリサとは似ていない崩れた顔の口が笑みのような形を作る。醜悪すぎてまたも吐き気がした。 「スライムか……」 じりじりと後ろへアリサを背中で押しながら下がって行く。スライムは不安定な形のまま、ゆらゆらと揺れながら近づいて来る。 「魔術で高温の炎を一定時間与えるか、凍らせて固めるか……」 問題はどちらもそんな魔術を使えない事だろう。出口がない以上打つ手無しの絶望的な状況。こんな時、あいつなら毒舌でも吐いて笑い飛ばすのだろう。
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