第5話 攻防(サルンの場合)

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

第5話 攻防(サルンの場合)

森しか無い筈の空間にガラスの割れる音が響く。耳障りな不快な音だが、ここが見た通りの場所ではないと確信出来る証拠であった。 「バレバレ何だよ」 なら、こんな所は早々に脱出すると、短剣が消えた辺り目掛けて、鞘ごと剣を叩き付けようと鞘を固定している腰のベルトに手を掛けた時だ。前方からガラスの割れる音と同時に俺目掛けて槍のような長い物が二本飛んで来るのを目撃し、咄嗟に剣に手を添えたまま屈む。 頭上を勢いよく通り過ぎる物へ視線を一瞬移すと、それが槍ではなく木の根のような硬い蔦だった。かなりの長さと人の胴程もある太さだ。出所を確認する為、前方へ視線を向けると、蔦が明らかに不自然な途中の空間から伸びていた。空中に浮かぶ根元へ向かって可能な限り低くした姿勢のまま突進する。同時に通り過ぎた蔦の鋭い先端が取って返す。 後方から新しい蔦が追い打ちを掛けるように現れた。 俺はそれに構わず、前方へ切り払うように剣を振り抜くと、剣から蔦の硬さが伝わってきた。蔦の一本が切り口から音を立てて落ちる。しかし、想定よりも堅かった蔦に勢いを殺されてもう一本は途中で止まってしまった。背後から迫る気配を感じ、蔦に刺さった剣を捨て横へ転がる。 複数の蔦の先端が地面へ深々と突き刺さる様子が視界の端に見えた。空間から新たな蔦の先端が見えた。ガラスの割れる音と硬い物を壊したような重い音が響く。 「……っぶね」 三本目が顔目掛けて飛んで来たのを更に横へ転がって避ける。前方の蔦と蔦の間に切り取ったように違う空間が見える。その隙間へ目掛けて飛び込んだ。 森から通路へ変わる瞬間、蔦が割ったガラスで顔に浅い傷が出来る。空気に触れてひり付き顔をしかめたが、それに構わず、床へ両手を付くと手首に全体重の重みが加わり、それに耐えて前方へ一回転して威力を殺す。 最初の長い通路に戻って来た。違う点があるとすれば、先輩と金髪の女の姿が消えている事、窓や壁が大きく壊れ、床のタイルを割って通路をふさぐ様に蔦が幾重にも絡み合い生えている。 後方へ視線を向けると庭が見えた。 「で、本体はあっちか」 最初に見た違和感のある庭の姿の中に明らかに異質な巨大な樹が生えていた。幹にあたる部分には人の顔に見える穴が三つあり、それが蠢いて気持ちが悪い。 「自分で結界破っちゃうとは、とんだ馬鹿な樹だな」 床に落ちていたナイフを器用に足で拾い上げた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!