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「こんな工場、もうやめてやる!」
そう叫んで、作業着の上着を投げつけて、康隆(やすたか)は工場を飛び出した。
決して短気な性格では無い。
むしろ、康隆はとても温厚であり、普段なら大声を出して怒鳴ったり言い返したりなんて出来ない。
そんな性格が災いして、康隆はここ半年ほど工場長から目を付けられていた。
イジメとも言えるほど、陰湿に執拗に、文句を言われる毎日だった。
工場長が奥さんと不仲になり始めてから、八つ当たりの標的にされているのだ。
康隆が何かミスをやらかさないか、少しでも落ち度は無いかと、工場長はいつでも康隆から目を離さない。
小さなネジ1つ床に落としただけでも、工場長は飛んできて、康隆を怒鳴りつける。
その横で他の者が工具を落として慌てて拾う姿が目に入っても、何事も無かったかの様に康隆だけに文句を言い続ける。
少しの気の弛みすら許されない毎日に、精神的に参っていた。
特に資格も無く、高校を卒業してすぐに働き初めた康隆には、次にすぐ仕事が見つかる保証も無い。
家族の為と我慢してきたが、限界だった。
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