梟は何も見ていない

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 愛美ちゃんに男がいたなんてそんな情報は僕にはないぞ。 他の異性とどこかへ出掛けたりといったりした様子もなかった。僕と言う恋人がありながら見逃してしまったのか? 然し影が増えるタイミングがおかしい。 彼女の知らない間に勝手にあがりこんだ感じだし、それも風呂上がりの直後だ。愛美ちゃんは男が部屋に入って来たことを知らないのか。知らせなきゃ!  「愛美ちゃん逃げ......!」  待てっ! 考えてもみろ。  ここで叫んでも彼女に聞こえる筈がないんだ。ここは愛美ちゃんが男に襲われる前に警察に電話した方が賢明だ。然し、僕がこのマンションから目撃したという証言自体を怪しまれてしまうことになる。それに警察に気付いて愛美ちゃんのマンションから男が逃走してしまったなら本末転倒だ。 僕の本文は愛美ちゃんを守ることで犯人を捕まえることじゃない。男が愛美ちゃんの部屋から逃げたら逃げたでそれだけで彼女を守れるとするならば、警察に通報するべきだ。  彼女の棲んでいるマンションの階数と部屋番号は判ってる。 僕は大急ぎでスマホを取り出して警察に通報しようとした。  「きゃああああっ!」  愛美ちゃんの甲高い悲鳴が部屋から聞こえた。  はっとして双眼鏡を構えると、愛美ちゃんはベランダの窓ガラスにもたれかかっていた。男は仁王立ちしたまま、すうっと片手を振り上げる。何かを持っているが、ひょっとして刃物か? 男は徐に振りかざしたそれを素早く振り下ろす。  「助けて! 誰か助けてええっ!」  愛美ちゃんは助けを呼ぶが、男はお構い無しに何度も刃物らしきものを振りかざし、窓ガラスに夥しい程の血痕を降らせる。 やめろっ! やめろやめろやめろやめろやめろっ! これ以上僕の恋人を傷付けるな! もう耐えられない。僕はスマホを握りしめて警察を予防としたが、そのタイミングで、知らない番号から電話が掛かって来た。
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