梟は何も見ていない

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 「越智一博だな?」  通話相手は僕の名前を知っているようだが、その上で確認して来たような口振りだ。  「ええ......」  「俺がしたことをマンションの向かいのベランダから観てただろう」  僕がここから愛美ちゃんを見守っていたことに気付いている。この声は愛美ちゃんを殺害した犯人だ。どこでどうやって僕の事を知ったのか判らないが、凄く厭な予感がする。  「誰にも言うなよ。言ったらお前も殺害する」  やっぱりだ。僕を口封じする気だ。  然し愛美ちゃんを殺害したことを許す訳にはいかない。ここは従った風を装っておいて、内密に警察に連絡しよう。  「言いません。誰にも」  「だが、電話だけでは信用出来ない。俺の前でそれを証明して貰おうか。ここの住所は判るよな?」  犯人は僕に愛美ちゃんの部屋まで来いと指示した。どうやら僕を部屋の中に監禁する気だ。 ここは万が一に備えて、包丁を持参して愛美ちゃんの部屋に行った方がいいな。穏やかではないが、犯人と刺し違える覚悟で行かなければ。でも待てよ。部屋に入ったとしても持ちものを調べられたらこちらに殺意があったということを悟られてしまう。 そうなると犯人を刺激してしまうのはおろか、包丁を取り上げられて、愛美ちゃんのように殺害される危険が高くなる。 何を形態しようが、同じ事だ。それならば肉弾戦で犯人に挑むしかないが、僕は喧嘩が嫌いなんだ。そう言った事に自信がない。  「判りました。行きます」  忽ち返事すると、当初の計画通り、通話を終えると警察に通報した。
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