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黙ったまま、眉根を寄せている彼女が、僕の言葉をどういう風に受け止めているのかわからないけれど。
僕は、思ったままを口にする。
だって、これが試されているのなら、僕は誤魔化してはいけないのだ。
「合うんです。良い部分も悪い部分も、全部。もしかしたら、彼は僕じゃなくても上手くやっていけるかもしれない。でも僕には、陽介さんしか合わないんです。
だからすみません。彼は、僕の、です」
彼の良いところも悪いところも全部。
僕には何一つ欠かせない、ひっくるめて全部で「陽介さん」なのだ。
恥ずかしいけれど、最後の言葉だけはちゃんと、アカリちゃんの目を見て主張した。
彼女は僕を睨んだままぐっと言葉を詰まらせたけれど、「ふぅん」とつまらなそうにつぶやく。
先に目を逸らしたのは彼女の方だった。
「すみません、つまらない答えで」
「別に、もういいけどぉ」
「ですよね」
あっさりとそう言った僕に、彼女が驚いたように目を見開く。
ちょうどそのタイミングで、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「え、まだ開店前だよね?」
「はい。浩平さんでしょう、多分」
にっこり笑ってそう言うと、アカリちゃんはぴょこん、と背筋を伸ばしてドアと僕とを交互に見た。
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