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アカリちゃんの気持ちが、今どこにあるのかは、僕が知らなくてもいいことだしこれからアカリちゃんと浩平さんが、確かめていくことだと思う。
店の扉を開けると、やっぱりそこに居たのは浩平さんと陽介さんだった。
アカリちゃんが店に着いた時点で、表情からなんとなく嫌な予感がしていたのですぐにラインを送っておいたのだが。
おかげで、開店ギリギリ前に間に合って良かった。
「すみません! ほんっとすみません!」
「いいえ、何も」
浩平さんは顔を見るなり僕にペコペコと何度かお辞儀を繰り返し、急ぎ足でスツールに座ったままのアカリちゃんの元へと向かう。
その後から、はらはらおろおろした陽介さんが僕の顔を窺いながら店に入ってきた。
「ま、真琴さん、何か」
「何も言われてませんしされてません」
その狼狽えっぷりがおかしくて、ふ、と苦笑いが漏れる。
何も、されてはいませんけどね。
「何やってんだよアカリ……」
「べ、別に。慎さんと話してただけだもん」
「迷惑かけんなって言ったろ?」
「かけてない。ちょっとだけ……困らせてみたかっただけで」
「いや迷惑だろそれ」
「だって私だけ何も知らなくて馬鹿みたいだったんだもんー!」
背後から、アカリちゃんと浩平さんの会話が聞こえてくる。
浩平さんには随分と素直にわがままなところを見せているらしいアカリちゃんの声に少しほっとしながら、陽介さんに寄り添って触れた手の甲を軽く抓った。
「いて。真琴さん?」
「ん?」
「や……やっぱ、何か……」
「何にも」
何にもされていないけど。
陽介さんはもう、モテなくていいと思う。
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