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万感の思い、つうか。
複雑な思いが去来する。
妹を取られた兄貴のような、娘を手放す父親のような、そのどれとも似て非なる感情。
置いていかれる、もうじき四十路の男の寂しさか。
いい相手が見つかって良かったなあと、それも確かに染々と思う。
何せよ、温めてきた卵を孵す時が来たわけだ。
「ねえ、佑さん。ほんとにこの店閉めんの?」
「まあ、そのうちな。別のとこ見つけるまではここだけど。っつか、お前荷物少ねぇな」
「だって、家具は殆ど新調したり陽介さんとこから移したりしたから必要ないし……僕の私物は元々少ないからね」
箱詰めした段ボールが五つほど、それは今陽介が車に運んで行った。
残った小さな手荷物を、真琴が肩に引っ掻けて立っている。
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