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長く一緒に居るが、こんな風に抱き合うのはそういや初めてだ。
ぎゅっとしがみついてくる真琴の背中に片手を回して、とんとん、と叩いて宥める。
「別に、何もしてねえよ、俺は。うちの従業員を安くこき使っただけだ」
「確かに安かった」
「贅沢言うなてめー。寝床もついてて至れりつくせりだろうが」
「うん、居心地良かった。ありがとう」
珍しくこうも素直になられては、流石に込み上げてくるものがある。
強く奥歯を噛み締めてから、は、と息を吐き出してそれを逃がした。
「お前が素直だと気持ち悪ぃな」
「なんだよ、最後くらい、って思っただけなのに」
「別に今すぐどっか行くわけじゃねーだろ、新居だって近いのに」
「そうだけど」
「それよりはよ離れろお前」
「厄介払いみたいに言うな」
「そうじゃねえから一刻も早く離れろ俺の命に関わる」
真後ろを見ろ!
今にも噛み殺しに来そうな勢いで、猛犬が牙剥いてんだよ!
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