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案の定、だ。
「は?いつから、なんで気付いたんだよ」
「なんでって」
あー、と宙を見て、一応考えているように見えるのはさっき僕がお願いしたことを覚えているからだと信じたい。
「ゆ、佑さんに聞いたとかじゃないですか?」
「佑さんがこんな手の早いオッサンにぺらぺら喋るわけないっすよ」
わりに陽介さんにはぺろっと喋ってたように思うのだが。
あの日、陽介さんが助けてくれた時。
抱き上げた僕が余りに軽くて疑問を持って、間近で見ても喉仏もないし女にしか見えなくなった。佑さんに一か八かで尋ねたらあっさり教えてくれた、と。
陽介さんが気付いたきっかけは、そう聞いている。
「陽介君は、なぜ気付いたのかな?それと似たようなものだよきっと」
ふふ、と笑いながら含みを持たせた言い方をした。
上手くかわしたか、と思ったのは束の間だった。
どういうわけか、ぴき、と陽介さんが表情を固まらせて言ったのだ。
「…………どこ触った?」
「男か女か区別をつける箇所は限られるんじゃないかな?」
陽介さんの怒りのボルテージがぐんぐん上がっていく、棒グラフの幻が見えそうだというのに。
そんなものはお構い無しに梶さんは相変わらずにこやかだ。
いやそれより。似たようなきっかけだと言われて、なんで「どこ触った?」になるんだ。
眉をしかめる僕に、陽介さんは全く気付いていない。
「胸とか触ったんじゃねーだろうな!」
「そうか、陽介君は胸を触って気が付いたのか」
よく気が付いたねえ、と聞き捨てならないセリフが聞こえたが、それはまあいい。
「え、いや。俺は」
ぎくり、と陽介さんが頬をひきつらせた。
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