第3章

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「―――ん……っ」 「……っ―――ふ」 皓々とした灯りの下に、激しい息遣いが響く。ときおり混じる熱い喘ぎ声……喉を鳴らす音。 壁に背を預けて足を投げ出した秋月の、その片足を跨ぐように夏目が身体を寄せた。 うなじに差し入れた片手で引き寄せて、唇の重ねを深くする。甘い喉声を上げてその手に頭を預けてくる秋月の媚態に、夏目の思考が霞んでいく。 想像していたよりも柔らかい唇、熱い舌―――同性を相手に、明らかに欲情している自分。 開けてと促すまでもなく、秋月の方から合わせた唇を開いてくる。歯列をなぞって舌を絡めあって。お互いを奪い合うようなくちづけに、息が足りなくなる。背中に回した腕で強く抱きしめれば、腕の中の身体はどこまでも溶けていくようで。 「なつ、め」 上がった両腕が夏目の背中から首に回り、指が髪に絡みつく。切なく潤んだ琥珀の瞳が、どうしたらいいのか分からない―――どうにかしてくれと訴える。 乱れた胸の袷から覗く素肌。その奥に見え隠れする淡く色づいた突起に、夏目の心臓がどくりと大きく打つ。薄く汗ばんだ肌に唇を落とすと、のけぞった喉がひくりと慄いた。 秋月が夏目の頭を自分の首筋に引き寄せる―――その先に続く行為を、容認するかのように。 「……秋月、さん」 鎖骨の窪みの上で囁きを落とす。秋月の唇からあえかな声が零れた。頭を抱いていた手が夏目の頬に落ちてくる。その掌にくちづけようと夏目が顔を傾けた―――とき。 袖が落ちて露になった秋月の肘の内側。そこに残された青い内出血の痕が目に飛び込んできた。 夏目の頭が、さっと冷える。 目を瞑った夏目が軽く唇を噛んだ。……長く息を吐き出す。秋月の肩を両手で掴んで、夏目がゆっくりと身を引き離した。 夏目?と、壁に凭れたまま秋月が目を開く。情欲に濡れた琥珀の瞳から夏目が視線を逸らした。 なぜ離れるんだと咎めるかのように、つっと上がった秋月の指が夏目の顎の線を辿る。ぎゅ、と夏目が瞼をつぶって自分の膝の上で拳を握った。 その時、外でタイヤの軋る音がした。続いて車のドアが乱暴に閉じられる音。 夏目がはっと顔を上げる。
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