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「……なにか、眠らせておく薬とか、ないんですか?」
「打たれた薬物も分からんのにそんなこと出来るか。採血したからこれから分析にかけてくる」
「……はい」
「で?何を打たれたんだ?」
夏目がぎくりと葛見を見返す。その目元が微かに赤くなった。つかつかと入ってきた葛見が、流しに煙草の灰を落とす。
「媚薬か」
「……!」
一気に赤くなった夏目の顔が、それを肯定した。
「意識ははっきりしていたのか」
「あ……はい」
「痛みとかは?」
訊ねられて、夏目が記憶を辿る。
「……胸を掴んで息苦しいって……でもそれは走ったせいかもしれません。家に着いたらもう言わなかったから……」
「ヤバいタイプの薬じゃなさそうだが……」
口の中で呟いた葛見が踵を返した。
「あの!」
肩越しに振り向いた葛見が目を細める。
「……あの、俺―――すみません、でした」
視線を落とした夏目の顔を、葛見が見返す。俯いた夏目の頬を水滴が伝い落ちていった。
「なんで、俺に謝るんだ?」
感情を見せない声で葛見が問う。
「…………」
視線を落としたまま、夏目が唇を噛む。葛見が天井に向けて煙を長く吐いた。
「任せたからな。奴らが押しかけてくるようだったら、警察を呼べ。奴らも馬鹿じゃない。ここまで来ることはないだろうが」
それだけ言うと葛見は出て行った。
葛見の後姿を見送ってた夏目が、ひとつ大きく息をつく。
止まろうとする足を無理に動かして、客間へと戻る。躊躇いながら襖をそっと開けて中に入った。
眠っている秋月にほっと吐息を落とす。枕元にすとんと座った。
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