第3章

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「……なにか、眠らせておく薬とか、ないんですか?」 「打たれた薬物も分からんのにそんなこと出来るか。採血したからこれから分析にかけてくる」 「……はい」 「で?何を打たれたんだ?」 夏目がぎくりと葛見を見返す。その目元が微かに赤くなった。つかつかと入ってきた葛見が、流しに煙草の灰を落とす。 「媚薬か」 「……!」 一気に赤くなった夏目の顔が、それを肯定した。 「意識ははっきりしていたのか」 「あ……はい」 「痛みとかは?」 訊ねられて、夏目が記憶を辿る。 「……胸を掴んで息苦しいって……でもそれは走ったせいかもしれません。家に着いたらもう言わなかったから……」 「ヤバいタイプの薬じゃなさそうだが……」 口の中で呟いた葛見が踵を返した。 「あの!」 肩越しに振り向いた葛見が目を細める。 「……あの、俺―――すみません、でした」 視線を落とした夏目の顔を、葛見が見返す。俯いた夏目の頬を水滴が伝い落ちていった。 「なんで、俺に謝るんだ?」 感情を見せない声で葛見が問う。 「…………」 視線を落としたまま、夏目が唇を噛む。葛見が天井に向けて煙を長く吐いた。 「任せたからな。奴らが押しかけてくるようだったら、警察を呼べ。奴らも馬鹿じゃない。ここまで来ることはないだろうが」 それだけ言うと葛見は出て行った。 葛見の後姿を見送ってた夏目が、ひとつ大きく息をつく。 止まろうとする足を無理に動かして、客間へと戻る。躊躇いながら襖をそっと開けて中に入った。 眠っている秋月にほっと吐息を落とす。枕元にすとんと座った。
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