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打たれた薬の影響がまだ残っているのか、秋月が時折眉を寄せて、荒く息をつく。額にうっすらと浮かんだ汗を拭おうと伸ばしかけた指を、夏目は握りこんだ。
もう一度、触れたら。今度はもう我慢できないかもしれない。
……どうしよう。葛見さんが来る前に、秋月さんが目を覚ましたら―――まだ薬が切れていなかったら。
なつめ、と。あの声で呼ばれたら。あの瞳で見つめられたら。
思考がぐるぐると回っていく。抗える自信など、全くなかった。
薄く開いた唇に、視線が引き寄せられる。ついさっきまで重ねていた熱い感触が不意によみがえって、背中がぞくりと粟立った。
「……っ」
手の甲でぐいと唇を拭うと、夏目が立ち上がった。客間の外に出て廊下に座り込む。とてもじゃないが、枕元で寝顔を見ている勇気はなかった。
葛見が戻ってくるまでの時間が、嫌に長く感じられた。時折襖をそっと開けて覗いては、秋月が眠っているのを確認する。
やがて外に車の音がして。ほっと立ち上がった夏目が、玄関で葛見を出迎えた。
「だめだな」
開口一番言われて、夏目が青ざめた。
「だめ……って、秋月さんが?」
引き攣る顔を横目でじろりと見て。葛見が廊下を歩きながら言葉を続ける。
「秋月は放っておきゃ戻る。そんなに長く持つクスリじゃないようだ」
夏目が安堵の吐息をついた。
「じゃあ、何がダメなんです?」
答えようと葛見が口を開きかけた時。
「……葛見か?」
襖の向こうから声がして。
「……目が覚めたか」
呟いた葛見が客間へ入っていく。夏目がおそるおそる後に続いた。
布団の上で、秋月が肘をついて上体を起こそうとしていた。脇に膝をついた葛見がそれを支える。
「頭痛や吐き気はあるか?」
額に落ちた前髪をかき上げてやりながら、葛見が顔を覗き込んだ。
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