第3章

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打たれた薬の影響がまだ残っているのか、秋月が時折眉を寄せて、荒く息をつく。額にうっすらと浮かんだ汗を拭おうと伸ばしかけた指を、夏目は握りこんだ。 もう一度、触れたら。今度はもう我慢できないかもしれない。 ……どうしよう。葛見さんが来る前に、秋月さんが目を覚ましたら―――まだ薬が切れていなかったら。 なつめ、と。あの声で呼ばれたら。あの瞳で見つめられたら。 思考がぐるぐると回っていく。抗える自信など、全くなかった。 薄く開いた唇に、視線が引き寄せられる。ついさっきまで重ねていた熱い感触が不意によみがえって、背中がぞくりと粟立った。 「……っ」 手の甲でぐいと唇を拭うと、夏目が立ち上がった。客間の外に出て廊下に座り込む。とてもじゃないが、枕元で寝顔を見ている勇気はなかった。 葛見が戻ってくるまでの時間が、嫌に長く感じられた。時折襖をそっと開けて覗いては、秋月が眠っているのを確認する。 やがて外に車の音がして。ほっと立ち上がった夏目が、玄関で葛見を出迎えた。 「だめだな」 開口一番言われて、夏目が青ざめた。 「だめ……って、秋月さんが?」 引き攣る顔を横目でじろりと見て。葛見が廊下を歩きながら言葉を続ける。 「秋月は放っておきゃ戻る。そんなに長く持つクスリじゃないようだ」 夏目が安堵の吐息をついた。 「じゃあ、何がダメなんです?」 答えようと葛見が口を開きかけた時。 「……葛見か?」 襖の向こうから声がして。 「……目が覚めたか」 呟いた葛見が客間へ入っていく。夏目がおそるおそる後に続いた。 布団の上で、秋月が肘をついて上体を起こそうとしていた。脇に膝をついた葛見がそれを支える。 「頭痛や吐き気はあるか?」 額に落ちた前髪をかき上げてやりながら、葛見が顔を覗き込んだ。
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