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「いや……なんともない」
「眩暈は?」
片手で目から額を押さえる秋月に葛見が訊ねる。少し、と答えた秋月の頤を掴んで軽く仰のかせると、その瞳を覗き込んだ。
秋月の視線が流れて、襖の前で正座している夏目に留まった。夏目の身体がぎくりと強張る。
「すまなかった……迷惑をかけたな」
淡々とした声はいつも通りのように聞こえたけれど。いえ、と夏目がぎこちなく応じた。
「あいつらは……追いかけてこなかったのか?」
「あ……はい」
お互いに微妙に視線を外した会話。
「……すまないが、水を持ってきてくれるか?」
落ち着きを取り戻している秋月の様子に。はい、とどこかほっとした顔で夏目が立ち上がった。
「あ、ついでに俺の車の中からクスリの分析結果持ってきてくれ。茶封筒に入ってる」
ほら、と投げられたキーを伸ばした腕で夏目が受け止める。夏目が廊下を渡っていく足音が消えて。秋月の肩から力が抜けるのを、葛見が横目でちらりと見た。
「どうやら記憶もしっかりしているようだな」
葛見があぐらを組みなおす。秋月が困ったように目を伏せた。
「のこのことついて行くからだ。やつらのヤバさを甘く見ていたな」
「……すまん」
腕の注射の跡を擦りながら秋月が唇を噛んだ。
「奴らに何かされたのか?」
聞かれてその目元が赤くなる。
「……ビデオを……」
語尾が消えるのを、ふん?と葛見が先を促す。一息ついた秋月がどもりながら続けた。
「ビデオを、撮られそうになったが……夏目が壊した」
「女でもあてがわれたか」
目元の赤みが頬に広がる。
「いや、その……朽葉とかいう男に……」
「やられたのか」
「―――葛見!」
露骨な言い方に秋月がいっそう赤くなる。
「触られて、脱がされかけただけだ」
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