第3章

6/11
前へ
/11ページ
次へ
「いや……なんともない」 「眩暈は?」 片手で目から額を押さえる秋月に葛見が訊ねる。少し、と答えた秋月の頤を掴んで軽く仰のかせると、その瞳を覗き込んだ。 秋月の視線が流れて、襖の前で正座している夏目に留まった。夏目の身体がぎくりと強張る。 「すまなかった……迷惑をかけたな」 淡々とした声はいつも通りのように聞こえたけれど。いえ、と夏目がぎこちなく応じた。 「あいつらは……追いかけてこなかったのか?」 「あ……はい」 お互いに微妙に視線を外した会話。 「……すまないが、水を持ってきてくれるか?」 落ち着きを取り戻している秋月の様子に。はい、とどこかほっとした顔で夏目が立ち上がった。 「あ、ついでに俺の車の中からクスリの分析結果持ってきてくれ。茶封筒に入ってる」 ほら、と投げられたキーを伸ばした腕で夏目が受け止める。夏目が廊下を渡っていく足音が消えて。秋月の肩から力が抜けるのを、葛見が横目でちらりと見た。 「どうやら記憶もしっかりしているようだな」 葛見があぐらを組みなおす。秋月が困ったように目を伏せた。 「のこのことついて行くからだ。やつらのヤバさを甘く見ていたな」 「……すまん」 腕の注射の跡を擦りながら秋月が唇を噛んだ。 「奴らに何かされたのか?」 聞かれてその目元が赤くなる。 「……ビデオを……」 語尾が消えるのを、ふん?と葛見が先を促す。一息ついた秋月がどもりながら続けた。 「ビデオを、撮られそうになったが……夏目が壊した」 「女でもあてがわれたか」 目元の赤みが頬に広がる。 「いや、その……朽葉とかいう男に……」 「やられたのか」 「―――葛見!」 露骨な言い方に秋月がいっそう赤くなる。 「触られて、脱がされかけただけだ」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加