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「感じたんだな」
断定されて秋月が視線を逸らした。ふーんと葛見が感心する。
「お前みたいなやつでも、しかも男相手にその気にさせるって、なかなかすげぇな」
「……葛見」
試してみたいもんだと呟く葛見を秋月が睨みつける。その瞳を見返して葛見が小さく笑った。ポケットから取り出した煙草を咥える。
「で、夏目とは?」
さりげなく聞かれて、しかし秋月が言葉に詰まる。
「…………」
秋月の口が開いては、また閉じる。葛見が視線で促した。
「……キス、した」
「それだけ?」
「それだけだっ!」
葛見の意外そうな顔に、なんだと秋月が睨み返す。
「いや、あんまり意識してるから、もう少し先までいったのかと……」
「いくかッ!」
秋月が憤死寸前の声を出した。
「……ともかく、夏目には嫌な思いをさせてしまった」
膝の上で組んだ手に視線を落す。
「どうかな」
ふーっと天井に向けて煙草の煙を吐き出す葛見に、秋月が眉を寄せる。
「嫌に決まってるだろう……男と、なんて」
「―――お前は嫌だったのか?」
答えようとして、秋月が言葉を途切らせる。葛見が灰皿を探して立ち上がった。
「……俺は……クスリ打たれてたし……」
困った顔で視線をさまよわせる秋月を一瞥して、葛見が灰皿に灰を落とす。答えになっていないぞと呟いた。
「まぁあれだな、思春期のガキじゃあるまいし、キスのひとつやふたつ、どうってことないさ」
「それは……そうだが」
「お前が気にするほど、やつは気にしてないかもだぜ」
秋月がひとつ瞬きをして顔を上げる。
「そう、か?」
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