第3章

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そうだ、と力強く断言されて。なぜか素直に頷けなかった秋月が顔を曇らせるのを、葛見が見つめた。 ほどなく、ぱたぱたと廊下を走ってくる足音が聞こえた。 「お待たせしました!」 襖が開いて夏目が入ってくる。 「書類がなかなか見つからなくって。ダッシュボードの奥だったんですね……はい、お水です」 小さなお盆に載せたグラスを秋月に渡す。 「ああ……ありがとう」 こくこくと水を飲む秋月を、夏目が心配そうな顔で見つめる。 葛見が封筒から分析結果のチャートを出した。薄く罫線が入った横に長い紙。そこに描かれているなだらかな曲線のグラフには、ところどころにピークがある。 「お前が打たれたクスリな、代謝が早いらしくて成分の同定が出来なかった」 言いながら葛見がグラフを指差す。 「違法な成分が検出できれば、あいつらの首根っこを押える事が出来たんだが、だめだった」 「……そうか」 「ほとんどの成分は植物由来のものだが、それだけじゃあんな効果は出ない。たぶんそこにケミカルドラッグが入ってる。もしかしたらデザイナーズ・ドラッグかもしれん」 「デザイナーズ……?」 聞きなれない言葉に、夏目が問い返す。 「簡単に言えば『違法』な薬物の分子構造の一部を、別の物に置き換えたやつだ。構造が違えば、たとえ作用が同じでも、あるいはそれ以上でも法律上は罪には問われないからな」 「……そんなものを扱っているのか、あの店は」 一見、高級そうで上品な店構えを秋月は思い出していた。 その奥に潜む闇の深さに気づきもせずに、のほほんとついて行った自分の甘さに唇を噛む。夏目が来てくれなかったら、いったいどうなっていたことか。 「なんでもアリのやり方で、奴らは関西の方で勢力を伸ばしてきたらしい。最近になって地方にも手を出し始めてるってわけだな。こんな田舎でやられたら、免疫がないだけにひとたまりもないぞ」 「どうしたらいいんですか?奴らまた、秋月さんに何かしてくるかも……」 夏目が不安げな顔になる。 「いや、俺はともかく、立ち退きの交渉を受けている人たちに何かあったら……」 秋月も眉を寄せた。
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