5人が本棚に入れています
本棚に追加
そうだ、と力強く断言されて。なぜか素直に頷けなかった秋月が顔を曇らせるのを、葛見が見つめた。
ほどなく、ぱたぱたと廊下を走ってくる足音が聞こえた。
「お待たせしました!」
襖が開いて夏目が入ってくる。
「書類がなかなか見つからなくって。ダッシュボードの奥だったんですね……はい、お水です」
小さなお盆に載せたグラスを秋月に渡す。
「ああ……ありがとう」
こくこくと水を飲む秋月を、夏目が心配そうな顔で見つめる。
葛見が封筒から分析結果のチャートを出した。薄く罫線が入った横に長い紙。そこに描かれているなだらかな曲線のグラフには、ところどころにピークがある。
「お前が打たれたクスリな、代謝が早いらしくて成分の同定が出来なかった」
言いながら葛見がグラフを指差す。
「違法な成分が検出できれば、あいつらの首根っこを押える事が出来たんだが、だめだった」
「……そうか」
「ほとんどの成分は植物由来のものだが、それだけじゃあんな効果は出ない。たぶんそこにケミカルドラッグが入ってる。もしかしたらデザイナーズ・ドラッグかもしれん」
「デザイナーズ……?」
聞きなれない言葉に、夏目が問い返す。
「簡単に言えば『違法』な薬物の分子構造の一部を、別の物に置き換えたやつだ。構造が違えば、たとえ作用が同じでも、あるいはそれ以上でも法律上は罪には問われないからな」
「……そんなものを扱っているのか、あの店は」
一見、高級そうで上品な店構えを秋月は思い出していた。
その奥に潜む闇の深さに気づきもせずに、のほほんとついて行った自分の甘さに唇を噛む。夏目が来てくれなかったら、いったいどうなっていたことか。
「なんでもアリのやり方で、奴らは関西の方で勢力を伸ばしてきたらしい。最近になって地方にも手を出し始めてるってわけだな。こんな田舎でやられたら、免疫がないだけにひとたまりもないぞ」
「どうしたらいいんですか?奴らまた、秋月さんに何かしてくるかも……」
夏目が不安げな顔になる。
「いや、俺はともかく、立ち退きの交渉を受けている人たちに何かあったら……」
秋月も眉を寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!