復讐

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復讐

 もうやめてやるって、あいつに言われた。  ふざけんじゃないわよ! バカにしないでよ! 私の叫び声は、あいつの心には届かない。復讐してやると、心に決めた。  私はあいつの名前を知らない。顔だって、しっかりと確認したのは今日が初めてだ。意外にいい男だったので腹が立つ。どうして普通に恋愛出来ないのか? 出会いが違っていれば、恋に落ちていたかもしれない。  あいつはストーカーだ。半年ほど前から家の電話が鳴りはじめた。あいつは私が家にいてもいなくても、数時間おきに電話をかけてくる。留守番電話には必ずメッセージを残していく。甘い言葉の日もあれば、脅迫めいた言葉の日もある。私はすぐに、電話線を引き抜いた。すると今度は、家にまでやってきて玄関ドアをドンドン叩く。私が帰宅したのを確認したかのようなタイミングに恐怖を感じた。私はすぐに警察に相談した。近所の見廻りを増やすと言ってくれた。そしてそれは効果があったようで、しばらくの間、あいつからのストーカー行為が止んだ。しかし、どこで調べたのか、今度は携帯電話にかけてきた。恐怖というより、危険を感じた。着信拒否設定をしても、違う番号でまたかかってくる。メッセージを送ってくることもあり、ニヤリと曲がった口元だけを写していた写真も送ってきた。会社への通勤帰宅途中に背後に気配を感じるのは、もはや日常になっている。付かず離れずのその気配には、安心すら覚えていた。  そんなあいつの様子が変わったのは、先週から。私が恋人に別れを告げられ泣いていた時のことだった。玄関をドンドンと叩き、ヒャハヒャハと笑っていた。だから言っただろ? バカな女だ! そんな暴言が飛んできた。  次の日から、あいつの気配が消えた。私は、嬉しいという気持ちと寂しいという気持ちが混ざった感情に驚いた。そして部屋で一人、寂しい身体を癒した。  あいつはまた、番号を変えて携帯電話に写真を送ってきた。そこには前日の、恥ずかしい私の姿が写っていた。メッセージは、なかった。翌日には、別の日の写真が送られてきた。恋人とのひと時や、お風呂での寛ぎの瞬間まで、あいつはずっと私を覗いていた。  そしてついさっき、あいつが私の前に現れた。きちんとチャイムを鳴らすのは初めてのことだ。無言で覗き穴をから外を見ると、見覚えある口元がすっと現れた。
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