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「いやです。実をいうと、ある噂を耳にしていたのです。あなた方が、近々、自分達の成績上げの為に事を起こそうとしているという噂を」
上司の顔がみるみる、青くなる。やはり、噂は事実のようだ。これを知ったから、私はますますやめたくなった。仕事は惰性的に行うにしても、そんなくだらない目的の為に協力しろと言われて頷けるはずがない。
上司が私の制服の裾をとっさに掴んだ。
「ま、まさか、その事はお上に知れて」
「分かりません。私は噂で聞いただけです。噂になるぐらいですから、その内、おかみの耳に入っているかもしれませんね」
裾を掴む上司の手はガクガクと震えている。震えるぐらいならば、最初からこのような計画を考えなければよかった。おかみのことの計画が知れた途端に、震え出すなど自分勝手もいいところだ。
「ど、どうしたらいい?」
「そんなこと。部下に聞かないでください。上司なんだから、少しは自分で考えてください。あ、いや、もう辞表を提出したから上司も部下も関係ないですね。私は転職先の面接試験があるので、これで失礼します」
私は泣きつく元上司を無理矢理にでも引き離して、職場から飛び出した。これ以上、構っていたら、おかみに共犯だと思われてしまう。
今になって、社内で元上司は証拠の隠滅に躍起になっているだろう。部下を使い、書類を消滅させたり、別の書類を用意させたり。そんなことをしても、おかみの目から逃れることはできないことも分かっているというのに。
ふと、空を見上げると、何十人という天使が私が勤めていた職場に向かっていくのが見えた。
その姿を見て、私は胸を撫で下ろした。昨日でやめることを決意して正解だった。
職場に残っているのは、上層部の思惑に従う者と何も知らない者だけ。何も知らずにいた同僚には教えなかったのを悪いと思うけれど、私も私で次の就職がかかっている、職歴にキズをつけたくなかった。
お神の命令で人間の魂が手に入り難くなったからといって、それを口実に大規模な戦争を権力者に引き起こさせ、多くの魂を手に入れる計画など、いくら私でも賛同できなかった。そこまでして、魂を手に入れたいとは思わない。
ただでさえ、悪魔の印象は悪いというのに。
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