141人が本棚に入れています
本棚に追加
心ゆくまで咲哉の抱き心地を堪能して、気の向くままに唇で触れた後。
ようやく満足してから、視線を動かした先。目に入った濃い緑に、頬が柔らかく緩む。
「咲哉」
「……なに?」
「浴衣」
「ん?」
「すごく似合ってる」
「……なに、急に」
「ずっと言おうと思ってたのに、言ってなかったから」
「そんなの…………隼人の、ほうが……オレより似合ってる、よ」
照れて俯いたつむじに、軽いキスを落としたら。
咲哉は真っ赤な顔を上げて、潤んだ目でオレを見つめてくるから。
込み上げてくる欲望を抑え込むのに苦労しながら、触れるだけのキスをめいっぱい降らせる。
「ん、……はやと」
照れ臭そうに首を竦めて笑うのを、この上なく愛しいと思った。
抱き締める腕に力を込めて、何度も何度も。腕の中にある咲哉の存在を、確かめるみたいに唇を寄せて。
随分と時間が経ってから、不意に咲哉が吐息とは違う音を紡いだ。
「はやと」
「ん?」
「けーたい、なってる」
ぼんやりした蕩けた目でオレを見上げながら、舌足らずに呟く咲哉の頭を抱え込んで。知ってる、と耳元に囁いて耳朶に噛みつく。
「ンッ、は、やとっ」
「だって、咲哉が煽るのが悪い」
「っ、から、あおってない」
キスだけでこんなに蕩けた顔をして。浴衣から覗く肌までも紅く染めておいて、煽ってないだなんて。
全くホントに自分のことを分かってないなと、呆れ混じりに苦笑して、帯に挟んでいたスマホを取り出す。
「……あ~……バレたか」
「ばれた? なにが?」
「オレらがいないって」
「ぁ……」
鳴らしていたのは、祭りに行こうと発案していた女子だ。
スマホを操作して耳に当てながら、胸に抱えた咲哉の頭に顎を載せる。
「なにー?」
『なにー、じゃないよ! どこにいんの!?』
「ないしょー」
『こどもか! てか、咲哉くん知らない!? 行方不明なんだけどっ! しかも柏木までいないし! みんなで思い出作りっつったでしょ! 勝手にいなくなんないでよ!』
きゃんきゃん怒鳴る声がさすがに耳に痛くて、遠ざけるみたいにスマホを耳から離す。
最初のコメントを投稿しよう!