これから先の君を、一瞬でも離したりしない

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 心ゆくまで咲哉の抱き心地を堪能して、気の向くままに唇で触れた後。  ようやく満足してから、視線を動かした先。目に入った濃い緑に、頬が柔らかく緩む。 「咲哉」 「……なに?」 「浴衣」 「ん?」 「すごく似合ってる」 「……なに、急に」 「ずっと言おうと思ってたのに、言ってなかったから」 「そんなの…………隼人の、ほうが……オレより似合ってる、よ」  照れて俯いたつむじに、軽いキスを落としたら。  咲哉は真っ赤な顔を上げて、潤んだ目でオレを見つめてくるから。  込み上げてくる欲望を抑え込むのに苦労しながら、触れるだけのキスをめいっぱい降らせる。 「ん、……はやと」  照れ臭そうに首を竦めて笑うのを、この上なく愛しいと思った。  抱き締める腕に力を込めて、何度も何度も。腕の中にある咲哉の存在を、確かめるみたいに唇を寄せて。  随分と時間が経ってから、不意に咲哉が吐息とは違う音を紡いだ。 「はやと」 「ん?」 「けーたい、なってる」  ぼんやりした蕩けた目でオレを見上げながら、舌足らずに呟く咲哉の頭を抱え込んで。知ってる、と耳元に囁いて耳朶に噛みつく。 「ンッ、は、やとっ」 「だって、咲哉が煽るのが悪い」 「っ、から、あおってない」  キスだけでこんなに蕩けた顔をして。浴衣から覗く肌までも紅く染めておいて、煽ってないだなんて。  全くホントに自分のことを分かってないなと、呆れ混じりに苦笑して、帯に挟んでいたスマホを取り出す。 「……あ~……バレたか」 「ばれた? なにが?」 「オレらがいないって」 「ぁ……」  鳴らしていたのは、祭りに行こうと発案していた女子だ。  スマホを操作して耳に当てながら、胸に抱えた咲哉の頭に顎を載せる。 「なにー?」 『なにー、じゃないよ! どこにいんの!?』 「ないしょー」 『こどもか! てか、咲哉くん知らない!? 行方不明なんだけどっ! しかも柏木までいないし! みんなで思い出作りっつったでしょ! 勝手にいなくなんないでよ!』  きゃんきゃん怒鳴る声がさすがに耳に痛くて、遠ざけるみたいにスマホを耳から離す。
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