リビングルーム・デスマッチ

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 私はフローリングの床を転がり、ソファの裏へと転がりこんだ。 「はぁっ……! はぁ……!」  荒い呼吸を静めようとする。しかし、心臓の動悸は収まらず、息はますます荒くなるばかり。 (落ち着け……! 落ち着くんだ、私!)  いつでも撃てるようにトリガーにかけておいた指が震えているのが分かった。  何と言っても、ソファを挟んだ遥か向かい側には"奴"がいるのだ。  私は"奴"がこの場所に現れるのを心の底から恐れていた。  シミュレーションは何回もした。いざというとき慌てないよう。  しかし、"奴"が私に与える恐怖は相当なもので、相対した時にまともに対処できるか、不安で仕方が無かった。  結果は、不安の通りで今の無様な姿だ。  息は荒れ、心臓は早鐘を打つ。  ソファの向こうへと踏み出して引き金を引くちょっとばかりの勇気が出ない。  だが、助けを求められる者は誰もいない。私がやらねば、誰も奴を殺る者はいないのだ。 (撃って、当たるか……? いや、当てるんだ! 一撃で仕留めるしか……)  それしか、私に生き残る道は無いのだ。  ぐずぐずしてはいられない。  放っておけば、奴はこちらに来るか、どこか別の場所に身を隠すかしてしまう。  先手を打たれ、こちらに来られれば死ぬのは私の方だ。  また、どこかに身を隠されれば、次にいつ奴が現れるか分からないプレッシャーで私の精神は早々に崩壊するだろう。  覚悟を、決めろ。 「っ……!」  一歩を踏み出し、ソファから身を晒す。  同時、場に素早く目を巡らす。  いた。  ターゲットを補足した私の心に、安心と恐怖が入り混じって渦巻く。  ここまで来たら、もうやるしかない  奴が、こちらに気付く前に殺す。 「う、ぁああああああああああああっ!!」  悲鳴に似た叫び声と共に、トリガーを引いた。  叫んでしまうのは、愚の骨頂だと分かっていた。  それでも、声を出さなければ恐怖でどうにかなりそうだった。
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